アニメをもっとうまく観れるようになりたい。ごちゃごちゃっと思ったことを自分の言葉で文章にして、気持ちに整理をつけたいと思ったのでブログを作りました。
最初は1話からぜんぶ話そうと思ったのですが、無謀な目標を立てて自爆するのが目に見えるので今日最近観た5話について話したいです。
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(0:00~)
『だが、それも再び戦争がはじまったらどうかな?』
『・・・北側と?』
『ドロッセルの公開恋文は知っているな?』
『ドロッセルとフリューゲル、敵対した勢力同士が幸せな婚姻を結ぶ。これは戦争が終わったことを周辺諸国に告げる明確な儀式なのだよ』
1話以降、愛を知らないヴァイオレットが手紙を通して人々とその激情に接し徐々に理解していくうちの一幕です。
物語の背景とともに、今回ヴァイオレットが関わる仕事が失敗したときの重大さが忠告されます。ここで下手を打てば最悪戦争にまで発展してしまいそうです。
声のトーンでは"明確な儀式"なことが強調されています。
『ヴァイオレットちゃん、今回のは大変な仕事だと思うけど、ここ数か月でたくさんの仕事をこなしてきたから、自信をもって行っておいで』
実は4話と5話の間ではかなりの時間が経っています。4話時点でのヴァイオレットは機械的に言われたままの文章しか書けず、大役を任される立場ではありません。ここでは"数か月"という言葉を使ったつなげる役割があります。
『私はシャルロッテ・エーベルフレイヤ・ドロッセル。隣国フリューゲルの王子、ダミアン・バルデュール・フリューゲルと婚姻する予定です』
今回は政略結婚に巻き込まれたお姫様の話。
(3:03)
ものぐさ王女が正装に着替えるのを、親代わりの宮廷女官アルベルタが眺めるシーン。
こういうシーンを見るときいつも①人物の向き②光源の向きを見ています。
大まかにいうと、
①画面左向きはポジティブな印象(前進、希望、順調、未来、立ちはだかる強敵)
画面右向きはネガティブな印象(後退、不安、後ろめたさ、過去、困難への挑戦)
古くは能や歌舞伎の上手(カミテ 客席から見て右側)下手(シモテ 客席から見て左側)に通じる舞台全般の概念です。適当に右や左を向いているわけではないのです。
ただ絶対のルールというよりは、だいたいそんな印象がある中で実際どうしようかな~と考えるようなものです。
②光に向かっているのはポジティブ
光に背を向けているのはネガティブ
こっちはなんとなくそんな気がすると思います。
この①と②(+配置)を使うだけで色んな表現ができます。
今回アルベルタは①画面右側を向いて ②光は左から右へ差しています。
ネガティブ+ネガティブです。 そして何を見ているかというと従者に服を着せてもらっている王妃です。
ここから、「婚姻を控えているのに未熟な王女に対して不安を持っている」「これから手元を離れてゆく育ての子がこのままで上手くやっていけるのだろうか?」といった感情を画面だけで表すことができます。
(3:26)
『なんだか人と話している気がしないわね。お前、本当に人形みたいだわ』
『・・・』
ヴァイオレット・エヴァーガーデンで特徴的なのが、さながら「脚は口ほどにものを言う」位に脚のカットを使います。
ただでさえ口数が少なく表情も無いヴァイオレットのちょっとした心情を説明するには脚や手先が使われます。
ここでも顔を映すのではなく脚で返事をしています。微動だにしません。人形のようで、ヴァイオレット自身はそう言われることに何とも感じている様子がありません。
(3:30)
『ときに代筆屋。歳はいくつなの?』
『だいたい14歳くらいだろうと聞かされています』
そんなに若いの…!?
(3:55)
『お気遣いなく。年齢になにか問題がありますでしょうか?』
『その…年上の男性って何歳まで有りだと思う?』
「年齢」に頓着する王女と無頓着なヴァイオレットで対比になっています。
人物同士での対比や対立を表すとき、その人物間にレイアウト的な壁を設ける方法がよく使われます。
ここでは王女が扇子を広げたので、これが壁かなぁ。。。でも単に照れ隠しの道具にも見えるし。。。と思っていたら、
(4:10)
『恋愛はした事がありません。しかし…古今東西の文献にあたり、統計的に分析はしております』
もっと分かりやすい図が出てきました。
恋愛をしたことがないヴァイオレット / 婚姻の渦中にあるシャルロッテ
の対比の壁役を手前のアルベルタが担ってます。
(4:19)
『それから判断すれば歳の離れた夫婦や恋人はたくさんいます。世間的に言えば特に年齢の垣根はないのでは?』
右を向いていて(ネガティブ)光源に向かっています(ポジティブ)。
言っていることは間違ってないんだけれど、本当に分かっているわけではないというチグハグさがあるシーンです。
ただ一連のヴァイオレット/シャルロッテの間の左右関係は、どちらかというと、身分の低いもの/権力者 の意味合いのほうが強いです。
王族が座にいるシーンや、魔王と問答をするようなシーンでは大体右側に強大なキャラがいて威圧感を与えてきます。
(例:盾の勇者の成り上がり 1話)
(例:えんどろ~!1話 魔王に挑むユーシャ)
ここで右側を向いているのは負けそうだからではなく、強いものに相対しているという意味です。
ここまでで2人の左右の位置関係は丁寧に守られていますが、実は一瞬だけヴァイオレットがほんの少し左側にいるシャルロッテを見るカットがあります。
(4:02)辺りの恥じらいながらいきなり恋バナを始める王女にキョトンとする所です。
これによって、厳格な主従関係からちょっと砕けたような表現ができます。
(4:24)
『十も年上でも?』
『…愛がなくても?どうなの?』
これが愛の無い政略結婚だということを印象付けています。
(4:55)
『なんなのお前は!今までどんな風に生きてきたのよ!』
『それと!もう少し表情豊かに話せないの!?』
やった!!!
(5:17~)
『お前…恋文上手いじゃないの!』
流暢な手紙を読み上げるシーン。
ここで4話から数か月の時が経っていること、その間に古今東西の文献を調べていたことをなんとなく聞き流してしまっていると、ヴァイオレットがいきなり上手くなったように感じてしまうかもしれません。
本来であれば興味のない人間に送る内容なんてどうでもいいはずです。興味の無さを表すためには、視線を逸らす、埒外のもの(クッキー)に意識を向けるといった動作があればよくて、シャルロッテの動きは当てはまっています。しかし同時に瞬き、視線、手、顔を動かしそわそわしていて、なんだか両方とも取れます。
(6:50)
《(相手からの手紙)私は早く私の貴女に…触れたいと思っています。失礼致します》
代筆の仕事は言われた通りに手紙を書くだけでなく、その奥にある本当の言葉を伝えること。というのが5話以前から言われています。
「私の貴女」は、上辺だけのやりとりではなく自分が知っているシャルロッテという人物の本心を知りたいという意味に思います。
ヴァイオレットは自分の書く手紙について、褒められてもすぐ返事をしなかったり、この文章にハッとして何かを考え、満足していない仕草が描かれています。こういったところは、まだどうしていいか迷っているにしても、1話から成長している部分だと感じます。
(6:53~)
『恥じらって…いらっしゃるのでしょうか』
『いいえ。あの泣き方はそういうものではありませんね。思い通りにいかない時に見せる泣き顔です』
シャルロッテが部屋を飛び出すシーン。ちなみに歩くときはモヤモヤを抱えているので画面右へと向かい、部屋を出るカットではきっちり左の下座側へ退場していきます。
このシーンが一つのポイントで、「思い通りにいかない」とはどういう意味なのかをこれから探していくことになります。
(7:21~)
『姫のことは…お妃様のお腹の中にいる頃から存じております』
『姫?お隠れになってもどこにいるのかすぐに分かりますよ』
今回の話に深くかかわるアルベルタという人物がどういう人なのかが描かれています。血縁は無くても親と同然なほどシャルロッテを知り尽くしていていること、冠を大事そうに拾う仕草からは私情だけでなく国のことも考える芯の通った人物像が浮かんできます。
ここぜひ映像で見てほしいのですが、姫を嗜める→逡巡→決意が目蓋の切り替えを挟んでとても丁寧に描かれています。こういうことが出来ると全体の繊細さが一層際立ちます。
『フリューゲルに嫁がれればこのアルベルタは居ないのですよ』
『私は宮廷女官です。私の身は王宮のものであってシャルロッテ様のものではないのです』
『お前は私のものよ!』
『少なくとも…私はお前のものだわ!』
対立のシーン。感情剥き出しに喋るシャルロッテの言葉がBGMの無い沈黙に次々と消えていく。
シャルロッテが自立できない、子供っぽい、感情の制御が効かないのに対して、アルベルタは微動だにしません。アルベルタが決して心中穏やかではないというのは一つ前のためらう表情、加えて画面奥の光源から顔に深く落ちた影で説明されます。
親代わりの自分が弱った子をさらに突き放すような厳しい言葉を言う、返ってくるのは嫌う言葉ではなくむしろ自分を慕っている心からの感情、それに対してしっかりと見つめ頬を緩めすらしない。ものすごい精神力です。
対立を表すために、人物を画面の端に置いて素早く切り替える方法が取られます。こうすることで実際にカメラで2人を交互に映そうとしたとき勢いが生まれ、緊迫感を演出できます。まさに言葉で殴っているようです。
この子供vs大人で強いのは大人の方なのでアルベルタが右側にいます。
『手紙も…お前も…なにもかも…出て行って!出て行ってよ…!』
『いいえ。お傍におります』
シャルロッテが「思い通りに行かない」と言った理由の一つがここまでで分かります。
一つ目は手紙、これについてはさらに後で出てきます。
二つ目はお前(アルベルタ)順調に婚姻が進んでしまうとアルベルタに依存しているシャルロッテは城を出ていかなければならず、離れ離れになってしまうからです。
ここに二人の血縁を超えた愛の一端があります。
そしてヴァイオレットはこの愛の一部始終をずっと見ています。そこから感じるものがあり、証拠として手を握ります。
(9:05~)
『シャルロッテ様、次の手紙は如何致しますか?』
『良いから…好きなことを書いておいて。どうせあっちもドールが書いてるんだし…』
『なにを書いたって同じだわ…』
意欲の無い人に物を買わせるのが一番難しいっていいますね。お腹減ってないのにコンビニに行って買うものが無く立ち尽くすときがあります。
今更ですが白椿はシャルロッテ側の国を表す象徴です。
花言葉は「完全なる美しさ」「至上の愛らしさ」。王女にふさわしい花だけどシャルロッテ自身の人柄はまだ未熟者です。
この作品では花の名前を持った人物が多く出てきます。花言葉はその人物に対するイメージと結びつくことが多いです。
『シャルロッテ様はあちらのお返事に満足されていないようですね』
『そういうわけじゃないわ。ただ…私が一度だけお会いしたダミアン様はあんな言葉を使う方ではないの』
ヴァイオレットは言葉をその通りの意味で捉えます。シャルロッテが「思い通りに行かない」理由を2回も間違えてしまいます。
『ねえ…今だけドロッセルの王女をやめてもいいかしら?』
『ヴァイオレット、貴女も今だけはドールをやめてありのままの姿で私の話を聞いて』
ここで構図の転換があります。
↓
今までは左側にヴァイオレット、右側にシャルロッテが基本でした。これは主従関係を示すものです。
しかし冠を外して問いかけるシーンでは位置関係が逆転しています。完全に右と左というよりは、画面奥と手前に分けて力関係を曖昧にしています。加えて今まで多かった正面で向かい合う図から、肩を並べた図になっています。
こういうところから、王族としてではなく年の近い一人の人間同士として話がしたいと持ち掛けているように見えます。
(11:05)
ダミアン王子と出会う回想シーン。
パーティを抜け出したお姫様が茂みの中に一人でいます。孤独感といっしょに、画面を無遠慮に埋める白椿は、お見合い相手に迫られる圧迫感にも見えます。
ここでは光差す方向に向かって泣いています。
『よお。誰も見つけてくれなかったのか?』
津田健次郎の王子様役が好き!
『泣け泣け。もっと泣いていい』
『わたくしは…泣き止みたいの!そんなこと言わないで…』
回想は常にシャルロッテ目線で進みます。ダミアン王子と会っている間、シャルロッテはひたすら左側(ポジティブ)+月明りの方向(ポジティブ)を向いています。すごく美しくてかけがえのない記憶だったのかもしれません。
そういえばシャルロッテを境に背景の明暗、花の有無がクッキリ分かれています。
まずシャルロッテに視線を集めてから左に誘導し、その先にあるダミアン王子との好意的な繋がりを意識させているような感じがします。
『あの方は…ありのままで私に話し掛けてくれた、たったそれだけ。だけど私は、私にはそれが……とても嬉しかったの』
『私、この婚姻が嬉しくて仕方ないの。だけど…あの方はどうなのかしら。本当は心に決めた方がいらしたのではないのかしら?歳だって十も離れているわ…お話が合わないかもしれない』
ここで前半で誇張されてきた「これは政略結婚、10歳も年上の相手との婚姻(だからシャルロッテは嫌がっているはず)」がミスリードだったと種明かしされます。
『私は…あの方の本当の気持ちが知りたいの』
『本当の…気持ちが知りたい』
「思い通りに行かない」もう一つの理由の答えです。
このまま上辺だけの手紙を続けても本心が伝わらない。シャルロッテは周辺貴族とは違うダミアン王子の飾らない言葉に打たれたのに、両者ともドールを経由したやり取りしか出来ていないことが不満の理由でした。
ここでヴァイオレットがバッジに触れています。これは3話でバッジを手に入れるに至ったキーワード「手紙とは人の心を伝えるもの。良きドールとは人が話している言葉の中から伝えたい本当の心をすくい上げる者」に繋がります。
『ですから…これからする事は私の出過ぎた行為です。弊社C.H.郵便社と無関係とご承知下さい』
ここでもバッジのアップを映しています。もしバッジを獲得できていない時のヴァイオレットであれば命令外の行動はせず、シャルロッテは諦めの気持ちのまま婚姻に向かったはずです。
このシーンに緊張感を持たせているのが一番冒頭、両国の婚姻が破談すれば戦争になるかもしれない(から慎重に行動してね)という台詞です。
(14:45)
《シャルロッテ・エーベルフレイヤ・ドロッセル様!あの月の夜、白椿の庭での俺のことを覚えていますか?》
『あの手紙、手書きよ!』
『次は…貴女が手紙を書いて下さい、貴女自身の言葉で』
ロマンチック~~!!
話は逸れますが、この絵のようにたくさんの人を出すとき大抵はいくつかパターンを作ってまばらにコピー配置するか、そもそもの人数を減らすかします。思い切って3Dを使ってぼやかす手段もあります。
しかし、このカットでは全員が描き分けられいてこの人数です。静止画なのが唯一の救いですが死ぬほど面倒くさいです。私は絶対やりたくないです。
《ダミアン・バルドゥール・フリューゲル様…覚えています。貴女、私の泣き顔を見て笑いましたね?私とても腹が立ちました》
《けれど…“貴女が泣いていい”と言ってくれた声を、その時の優しさを…いつまでも覚えています》
《年相応の君が可愛くて笑ったんだ、悪気があったわけじゃないゴメンよ。俺は肩書は王子だけど、みんなが望むような性格じゃない。大人の男を期待しないでくれ》
《あの夜…一度しか会ってないけど、君はどんな子なの?》
ここから外野を巻き込んで怒涛の盛り上がりシーンです。
ここでおもしろいのが、シャルロッテがまっすぐな言葉を使うのに対して、ダミアン王子が卑屈っぽい物言いをするところです。
この作品では、言葉のオモテをストレートに話す人物と、そのままの意味で捉えてほしくない言葉のウラを使う人物に分かれます。2話のテーマがまさにそうでした。例えばヴァイオレットがオモテの住人なのに対して、2話のエリカはわざと試すような物言いをするウラの住人です。オモテとウラは互いに影響を及ぼし合います。このヴァイオレットとエリカの対比がここにもあります。
月下の庭園での回想シーンでは、"裏腹"な言葉を使うシャルロッテが、率直な物言いをするダミアン王子に救われたという話でした。
月日が流れたこのシーンでは2人の関係性が逆転しています。
つまりかつてのシャルロットが救われたように、現在のダミアン王子も何かしら問題を抱えていてこの文通によって救われている…?と思いましたが、いまいち説明されるところも見つからなかったので妄想の域です…。ただこの本心のやりとりがその後の結果に影響するものだった、くらいまでなら言ってもいいはずです。
⇒あらためて見直していると気づきがありました。後ろの方に追記しています。
あとこのシーンはすごく長いです。3分弱ありました。
その間ずっとセリフがメインなので映像が手隙きになりがちです。どうしよう。
そこで役割を持っているのが白と赤の花です。
白がシャルロット側の象徴であるのに対し、赤はダミアン王子側の象徴です。
二人がやり取りする間一輪ずつ手紙とともに運ばれ、重ねた言葉ごとに増えていく。これが映像に動きをつけています。
もうひとつ、(16:50)のシーン
ダミアン王子のウラのある言葉に迷ったシャルロッテをヴァイオレットが助けています。
誤解の無いように言うと、5話時点でヴァイオレットは「オモテの言葉を使う住人であり、相手の言葉のウラも少しは理解できる」ようになっています。2話のラスト、エリカの"裏腹"を指摘したあたりからです。本来良きドールとは言葉のウラを掬い上げるもので、ここでもヴァイオレットの成長が見られます。
(17:52~18:25)
『あんなこと書かなければ良かった!きっと可愛くない生意気な女と思われているに違いないわ…』
次のシーンに向けて準備をするシーンです。
掛け時計やメトロノームなど、同じことを一定のリズムで繰り返す物は思考の堂々巡りの象徴です。
ここはゾッとさせられます。手紙が逆光になっているだけでなくナイフが出てきました。ナイフはあまりにも危険なシンボルです。
もしこれで背景が窓の無い壁だったり、天気が曇っていればバッドエンド直行!ですが、まだ結末が判断できないようになっています。
『今宵、月下の庭園で待つ、と』
一連を通して顔に落ちる影の量を使い、不安→不安混じりの期待を表しています。
(18:26~)
月光に背を向けて歩くネガティブな印象です。不安のボルテージがうなぎ登り。このあたりでやっぱりダメかもと思ってきます。
11:05頃の回想シーンと同じ場所です。違うのはシャルロッテの向き。
前回ダミアン王子は月明りのある左側から出てきました。もし暗い右側から出てきたらこれもバッドエンドです。
気持ちの圧迫感こそ昔と同じであれ、その意味合いがまったく異なっているのが面白いです。
静止→髪を直す仕草→胸に手を置く→手を組む→険しい表情→目を閉じて俯く→見上げる→驚き→振り向く
こういうことを情感たっぷりに実現してしまうのが凄さだと思います。普通はこうならないと思います。
『俺の未来の花嫁は賢くて、気が強くて、面白い人らしい。良い妃になる』
『結婚しよう。シャルロッテ』
言われてみたい
私の本心を意味してる赤い薔薇が今までは従者経由だったのに大一番では自分で持ってきて傅くの良くないですか 良い
こんな口のかたち描ける…?
『恋が…実りました』
今まで文献の知識でしか知らなかったヴァイオレットが恋を認識しました。
これで大団円。次の依頼へ向かうヴァイオレットを総出で見送ってエンディング、でも満足でしたがまだ終わりません。かつてシャルロッテが葛藤した理由のうち1つだけが解決しました。この物語で扱った"愛してる"は2つあります。
(19:28~)
『姫様。お支度の時間です、お目覚めになって下さい』
『……姫?』
『アルベルタ!』
『私はここよアルベルタ。おはよ』
シャルロッテがアルベルタをからかってみせるシーン。
物語のうち「繰り返される同じ表現」にアンテナを張っておくと良いことがあります。それは最終12話が1話のオマージュをするのと同じで、物語を通して変化した部分を表すものです。
この回では、「アルベルタがシャルロッテの寝台のカーテンを開ける」動作がここまで4回繰り返されてきました。
【1回目 2:27 シャルロッテが初めて登場するとき】
【2回目 7:42 冠を捨てたシャルロッテが塞ぎこむとき】
【3回目 14:35 シャルロッテを取り巻く状況が変わりつつあるとき】
【4回目 19:41 婚姻が成立し巣立ちを前にしたとき】
1,2回目の暗さや表情が徐々に和らぎ、3回目は開けた瞬間もう起きていました。そして最後はアルベルタの予想とは違う場所から出てきました。
このシャルロッテの変化に対応するのが(3:03)時点のアルベルタの憂いの表情、そして(7:21~)の「姫のことなら何でも知っている」という発言です。
子供っぽい姫が自分もいない嫁ぎ先でうまくやっていけるのか、不安を抱えていたアルベルタに見せつけたのがこのシーンです。シャルロッテはもはや親の考えには収まらないほどの自立した大人になりました。
(20:14~)
白はドロッセル、赤はフリューゲルの象徴です。婚姻が成功したことで両国とも無事に友好関係になったことの説明です。
『ヴァイオレットにも…婚礼衣装を見て欲しかったわ』
アルベルタとの別れのシーン。
このシーンにヴァイオレットはいません。第5話を通してヴァイオレットが"愛してる"をまたひとつ知る、という最低限の条件はもう達成しています。なのでもうひとつの愛についてはヴァイオレットが観察していなくても水入らずで進めることができます。
『もう…不安ではありませんか?』
『不安よ…不安だわ。今も本当は泣きそうなの』
『泣いてはいけません。せっかくの門出に』
本当はアルベルタだって泣きたいはずなのに…
鏡を使ったシーンです。以前(7:13)にも鏡が出てきたことがあり、そのときはシャルロッテがイライラして冠を外す場面でした。「感情的になると自身の立場を忘れてしまう」と叱られもしました。
今も感情的なシーンですが、同じ冠を被っていても外したりはしません。
『ダミアン様の元へ嫁ぎたい…』
『はい』
『でも…国を離れるのはイヤ』
『はい』
『でも…本当に嫌なのは、他の誰でもなく…お前と離れる事なのよ、アルベルタ』
『姫…』
『幸せにおなりなさい…シャルロッテ姫』
アルベルタは自分を厳しく律する人です。こんなに強い感情をぶつけられても大きく表情を崩さないのは、なんとも思っていないからではなく、シャルロッテの未来を邪魔しないためです。
花は国家の象徴だけでなくその人の本心を表す物でした。ダミアン王子との本心のやりとりで赤い薔薇が添えられたのと同じく、アルベルタはドロッセル側の人物なので白椿を添え、ただ祝福の言葉だけを伝えます。
映像的にはここも鏡が一役買っています。一連のシーンの中では純白のドレス、白椿、白い壁に光を使って全体的に輝いているような印象を持たせています。
その中で本人からほんの少しだけズレた位置に鏡の像をボカして置くことで、一段と発光しているように見せることができます。
涙が零れ落ちる描写はありません。せっかくの門出に泣いちゃいけない。。。
相手の手の甲におでこをつけるのは、目上の人に尊敬の念を示すジェスチャーです。戸惑った手の表現がすごくいい。
思い出すのは(7:57~)シャルロッテがアルベルタと口論する場面です。
『少なくとも…私はお前のものだわ!』
子供のように大粒の涙を流し、アルベルタに依存した、立場の逆転したシーンでした。
あれからシャルロッテは子供から大人へ、依存から自立へ、立場もわきまえるように変わりました。でも台詞の中には一つ変わらないものもあった。それがアルベルタへの深い敬愛です。
大人のジェスチャーで、依存ではない敬愛を、立場をふまえた上でそれ以上に、貴女を愛してる。
台詞は無く、全てが動作で表現されます。
(22:02~)
『ヴァイオレット。貴女、私に借りが出来たわね。ダミアン王子説得するの大変だったんだから』
入りは馬車の音が雰囲気を変えてくれます。
『ねえ…今日は本当に良い日ね。そう思わない?』
『はい。良い、結婚日和です』
今日が良い日の理由についてカトレアは言葉の裏をはらんでいる(ヴァイオレットの表情が嬉しくて言った)のに対し、ヴァイオレットはやっぱり素直な感想を言います。
シャルロッテと初めて会った日は手で顔を作っていたのがこんな表情をするようになりました。
過去を見ているので右向きです。
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5話はこれまでと違う点があります。
今回は主人公のヴァイオレットが直接問題を解決したわけではないことです。シャルロッテとダミアン王子が本心のやり取りをしたりアルベルタにきちんとお別れを告げたりしたのであって、ヴァイオレットは補佐や裏方の役割でした。すると「ドール(代筆屋)って必要だった?」という疑問が出てもおかしくないはずです。
文字の書けない人の代筆という役割こそあれど、今回のように当人同士でやりとりすればいいだけの不要な仕事なのでは?ヴァイオレットがいなくてもそこそこ上手くいったのは?といじわるに取ることもできます。
物語の重要な要素がさりとて蔑ろにされているよう解釈できてしまう場合は、その疑いを否定する材料が必ずどこかに仕込まれているべきです。
結論からいうと、「ドールのおかげで暗に戦争が食い止められていた」のだと思っています。
1回目の文通のシーンです。
シャルロッテ→ダミアン王子(5:55)
ダミアン王子→シャルロッテ(6:45)
1枚目では画面中央に白椿が強調される図になっています。しかし2枚目は手元が画面外に配置され、赤い薔薇があるのかないのかもハッキリしない図です。
この時点では、シャルロッテこそダミアン王子に好意を持っていたものの、ダミアン王子は乗り気では無かったことが窺えます。かつ2回目以降の文通内容から、「昔に一度きり会ったことを覚えているほど好意はあるものの、自分のことをよく知らないまだ子供のシャルロッテのことを思って敬遠しようとしている」ようにも見えます。本当は他でもないシャルロッテが根回しをしたのにね。
ここから、放っておいたら2人は婚姻すら成立しなかった可能性があります。するとなにがマズいかというと冒頭の戦争の説明に繋がります。
結末を変える分岐点になったのがヴァイオレットの行動です。
ただし"主人公"としてのヴァイオレットが解決しただけではだめです。ドールの存在意義にはなりません。"良きドール"としての振る舞いが事態を変える必要があります。
ドールの矜持=バッジです。この場面ではバッジに触れ、ドールの矜持を持ったヴァイオレットがアクションを起こしたことが重要でした。
なので物語の中でドールは依然として意味を持ち続けています。
最後にダミアン王子側のドールがカトレアだったことが明かされます。カトレアはプロなので言葉の裏をすくい取った文章を手紙にできます。つまり1回目にダミアン王子が送った手紙は必ずしもダミアン王子が話した言葉そのものではない、もしかしたら文末の「私は早く私の貴女に触れたいと思っています」 はカトレアの功績かもしれません。
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これだけの作りこみ、絵の豪華さで1本作るのは普通のことではないです。映画もすごくヒットして、普段アニメを観ないような人も知っているタイトルになりました。だからこそ「なんか綺麗だったから神回」みたいな終わり方をするのはもったいないな…って気持ちがあります。
当たり前なのですが、「なんかうまい人が適当に念じた」だけで絵は生えてきません。そんなことわかってるよ!と思うんだけど、アニメを見ているうちに、たまに頭から抜けちゃうような、誰かが魔法で作ったような気になってしまうときがあります。
ただ自然発生してるんじゃなく、こういう風に作られてるんだな~~って思っておくとアニメに込められたものをもっと観られるようになるんじゃないかと思っています。わかんないけど…!
実際、作品から伝えられることに"意図"はあっても"正解"はありません。もっと読解力のあるすごい人なら正解に近いことをすぐに汲み取れるのかもしれないけど…、この重箱のような作品を片隅からでも何とかして分かりたい、分かるためには下手でもアウトプットしようと思いこの長文に至りました。
ここまで読んでくれてありがとうございました。
Netflix
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『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 - 永遠と自動手記人形 -』予告
制作風景