なんかやりたい ①あるく

はじめに

アニメがなんで動いてるのか分からない!「派手でカッコいいアクション」とかは置いといて、どこにでもあってとにかく手が付けられるものをやりたい。なんかやりたい。

30分アニメを見てるうちに、ときどきワケの分からない巨大なものを目の当たりにしてる気がして怖くなりませんか?目は開けてるけど本当のところ何も見てないんじゃないかみたいな。心当たりがあるならいっしょに病院へ行こうね。

そういう感じの記事です。

 

なにしよう

例えばアニメでこういう場面をよく見かけます。

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『まちカドまぞく』第2話 スポ根ですか!? 万物は流転する

上半身だけ映っていて歩きながらお話したりするパート。これなら何とかできそう!苦労して何十枚も絵を用意する必要は無いし、1枚上下させるだけでも充分歩いてるように見せられそうです。

 

 

1.やってみよう

横を向いている絵を1枚だけ用意します。これをちょっとずつ位置を変えた画像を用意して、繋げれば歩いてくれるはず。要は前に進んで上下していればよいのです!

村の古文書を漁ったところ『歩きは8枚 走りは6枚』とお触れがあったので、1サイクルに8枚を使います。そこだけ出来てしまえばあとは同じ動きをコピーするだけ。

よーし、やるぞー!

 (数時間後…)

 

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これは・・・思った以上にカチカチしてる・・・。

そもそも見づらいです。モブキャラはこういう風に画面を横切るけど、メインがこうして歩きながら会話することはあまり無い気がします。動きに目を取られて内容も表情も入って来ないかもしれない。
画面左の方まで進んでから振り返るみたいなシーンはよく見るけど、特にそういうわけでも無いなら別のやり方にしたほうがよさそうです。

 

2.背景を入れて右寄せにした

ヒトが動いて見にくいなら背景の方を動かせばよいのです。それならヒトは横に動くこともなく本当に上下するだけでいいのでもっと簡単。

横に長ーい背景を用意して、

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上下するヒトを入れます。

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おお……なんかそれっぽい!!

ヒトは1秒を8コマに割った間を瞬間移動しますが、背景はヌルーっと動かしてます*1。 見るべき場所も定まって表情も分かりやすい。

ヒトが横移動しなくなったことで、今度は画面のどの場所にヒトを置くか悩みました。今回は右の方に配置。進む方向に広く間を取ると"歩く"ことに意識が当たる感じがしていい感じです。そうじゃなく、歩くことよりもキャラを見てくれ!ってときは真ん中に堂々と置いてもいいし、左側に置くと何か行き詰ってるような感じがします。位置ひとつを取っても面白いね…。

一方で、動きのカチカチ感はまだ残ったままです。歩いているというよりも上下にフワフワ浮いてるような。

 

 

3.上下する間隔を変えた

1サイクル8枚をバラしたとき、それぞれは同じ幅で上下させていました。

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だけど実際にそこらへんを歩いてみると赤線のような等間隔にはならなくて、踏み込みと一緒に下へズンッと加速して跳ねるようなリズムがあります。

ヒトは脚を前後させて歩くので、脚のつけ根を中心に円に沿った分だけ上体も沈み込むイメージ。そうすると赤線が動く幅は均一じゃなく、1サイクルの中で偏りが出ることになります。

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・・・なんだか大層な図になってしまいました。
つまるところ「頭が上がるときは幅を小さくしてゆっくり、下がるときは幅を大きくして早く」にすればよさそう!

 

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上下に動かす幅に緩急をつけました。この放物線をもっと露骨にするとスキップとかも出来るかも。
ひとまずこれで動かしてみます。

 

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2のときと比べると地面を蹴ってる感が出てるんじゃないかな…!

単体で見ると違いが分かりにくいかもですが、改めて以前のを見ると風船で吊られてるような動きを感じるかもしれません。

 

4.背景の動かす速さを変えた

歩くのに脚を使うようにはなったものの、遠くから眺めるとやっぱり不自然で安っぽい印象・・・実は上でやっている中にはある重大な間違いが潜んでいました。これをアニメの先生に採点してもらうと才能ナシで突き返されるわけです。(作りこみはともかくとして)なにが間違ってるのでしょう!!

見出しで既にネタバレしてますが背景にあるものがすべて同じ速さで流れているのが問題です。「近くにあるものは早く、遠くのものは遅く」里に代々伝わる石板にもこの一文が太字で彫ってありました。
これがマズいと見たときに何となく紙芝居っぽいような、のっぺりした感じになっちゃいます。*2

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前に1枚作った背景を、近・中・遠で3枚に分割しました。

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1枚目は今まで通りの速さ、2枚目の建物と電柱は少し遅めに、3枚目の風景はほとんど動かさないようにして重ねます。

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一気にリッチになった!そんなに手間もかからなかった割には画面にグッと奥行が生まれていい感じ。
今回はあえて「窓」と「向こう側の景色」を入れたのでこのようにしていますが、必ず奥行き深くしなきゃいけない!という訳ではないです。*3

アニメっていうとどうしても人物がぐりぐり動いてるところばっかり見てしまうのですが、実は背景をつける・動かす事にもこれだけのパワーがあって、特に何かが動くときは人物と同じくらい重要なんだね…。

ともあれかなり出来ましたし、これはもう歩いていると言っていいでしょう!

よかった!

 

5.髪や服を揺らす

髪を揺らせてあげたい。今まで歩かせるといいながら最初1枚作ったヒトに加筆はしませんでした。だって大変です。この1サイクルだけでも8枚分作らなきゃいけないんですよ?だけど歩けば髪や裾も揺れるというものです。

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とりあえず頂点から長く降りて柔らかなところが動きそうです。前髪と横髪、ポニテなんかは揺れて、腕もちょっと前後させるといいかも。おなか周りの服の裾は、緑の線は長いけど固めの素材だったらあんまり揺れなさそう。

「髪のなびき方」とかを検索するとバサァと見事になびくやり方が出てきますが、今はキメのシーンなんかではないのでほんのちょっと動いてればいいはずです。一度にアレコレ手を出そうとすると大変だからね。動く幅は線1本分ずつくらい。

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(作成中…)

本当は全部書き直すんだと思いますが、頭頂部や輪郭などはそのままにして動くところだけをズラしていきます。さらに横着して作るのは5枚だけ。3カット分(B・C・Dのところ)は上下する動きの中で使いまわしちゃいます。

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A→B→C→D→Eと頭が上がるにつれて髪の線は直線に近づいて、逆にE→D→C→B→(A)と頭が下がるにつれてふわっと曲線になるんじゃないかな……?
実作業としては最初の1枚を"D"にあて、→Eに伸びるコマを1枚、A←B←C←に膨らむコマを3枚作りました。

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やっと5枚できた・・・。これを上下の動きに乗せます!

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おぉーーー・・・んんん??

ちょっとポニテのところが元気すぎる!?「動く幅は線1本分ずつくらい」と言いながらついやりすぎてしまいました。。この子が髪に二個目の心臓を持ってない限りもう少し落ち着けたほうがよさそうです。

(修正中…)

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もっと良いやり方もあると思いますが、ひとまず歩いてるように見えます!
地道に引いた線が一つになって動き出すのはいつ見ても感動…うれしい…。*4

晴れて絵が動きました。これで同じように上半身で歩くシーンを見たとき、画面で起こっていることが分からず取り乱す心配が減りそうです。原理の分かった心霊現象はもう幽霊ではないのです。

本当に?

下に続きます……

 

(※追記)
この5.は動いて楽しい!はそうなのですが一番大変なところでもあります。本当に毎回こんなことをしなきゃいけないんでしょうか?

改めてアニメを流していると必ずしもやらなくていい気がしてきました。特に3~4人が同じ画面にいるときなんかは動かす手間も3,4倍になる上、過剰にバサバサしてると他に見せたいところがあったとき集中できなくなるかもしれません*5。またスケジュールが切迫している状況で削ってもいいのはこういう所でしょう。一部のシーンを切り取って「動いてないから手抜き…」はちょっと違う気がするのです。

大切なのはシーンが何を見せたいかだと思います。逆に1人を目立たせたいとき、動きから心情が滲むような場面では、見せるべきは”ヒト”なので、ヒトの髪もそれなりに動いていた方が質を高く見せられそうです。

 

実際のアニメから「歩き・走り」を見る

全身を映すこと 映さないこと

最初のとき、歩く・走るシーンを求めて適当なアニメを開きました。
「さあ!全身がちゃんと入ってるシーンを探すぞ!」と息巻いたところ、これが意外に見つかりません。シークバーや10秒送りのボタンをポチポチしていくと大抵は上半身しか枠に収まっていなかったり、足元だけ映っていることがほとんどだったり。

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(予想していたもの)
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(『まちカドまぞく』第2話 スポ根ですか!? 万物は流転する)

書き込みを節約できるのもそうだけど、ここでは顔を大きく見せられるのがイイところ。
始めに出来あがった動画はキャラが画面を横切るため表情が見づらかったです。それと同じで「走ってること自体よりも顔が見えることの方が大事!」といった場合は、わざわざ全身を収めるより枠で切り抜いたほうが効果的&省エネです。桃の顔が大きく映っていたら嬉しい…うれしい!

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(左:『つり球』3話 寂しくてキャスティング 右:4話 ムカついてランディング)

逆に全身が映るものだと、最近(?)では『つり球』3話の全力疾走が印象的でした。キメのシーンで、全身を使った喜びの爆発がすごくいい…!
つり球では他にも、引きぎみの位置から全身を映して走る場面がちらほら。こうするとこの場面のメインはユキ達でもありながら、バックに映る"江ノ島"の海が舞台にあって、そこを駆ける少年たち。という風味に持っていけそう。

このようなときには全身を映すことがシーンをより魅力的なものにしています。

 

テレビアニメではどうやってるのか

「歩きは8枚」だとか無知なりに調べてそれっぽいコトをしましたが、実際のところどうなんでしょうか?
歩くシーンを手当たり次第にピックアップ。

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(『こみっくがーるず』 2話 今日から学校でした)

1サイクル7枚でした。やったものと似たような構図。

やったのと違う点は髪の動き。上がったときに膨らんで、下がるときに伸びています。前髪の膨らみや後ろ髪の下の方を見ると分かりやすいかも…!違和感なく歩いているように見えます。こうやってもいいのですね。どことなく柔らかい感じ。

 

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同じ2話から。手前を通り過ぎる子に誘導されるように背景がスライドして、カメラが止まって、校門を越える場面。

上と違って4人の髪はほとんど動いていません。
このシーンは初登校ということもあって今までの舞台から学校へと場面転換するところでした。「登場人物が学校に入ること」が分かればいいので、画面の真ん中に持ってくるのはその境目。髪は動かしてもいいし、動かさなくてもいい気がします。*6

 

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(『かぐや様は告らせたい?~天才たちの恋愛頭脳戦~』2話 かぐや様は聞き出したい)

1サイクル5枚です。正面から映していて背景は奥に流れます。

映す範囲を下からじんわり上へ持っていくと人物も多めに見えるし、舞台の高いビルが説明できてお得!ビルは真ん中から分けて左側・右側がありますが、それぞれ距離が違うので動かし方も微妙に違っています。

 

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(『Lapis Re:LiGHTs(ラピスリライツ)』1話 Legendary academy)

1サイクル8枚でした。のっしのっし歩き。
3.の時に上下する間隔を上に詰めて「歩いている感」を出そうと企みましたが、今度は逆に下に詰まっています。こうすると地面をじっくり踏んだ歩き方になりそう。

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同じくラピスリライツ 1話からキメのシーン。
こっちでは下がったときに髪が膨らんで、上がるときに伸びています。よりリアルっぽさとかサラサラ感を出したいときはこっちの方がいいのかもしれません。

 

おわりに

なんとか目の前で絵が動いてる事実を受け入れ・・・受け入れられるようになるはずが、逆に謎が深まった気がする!! ギャー!!! でも試行錯誤を通して観点みたいなところは確かに増えた気がします。アニメを見るのはやっぱり楽しい……。

ただ、決して「歩きは8枚使うのが良くて5枚は悪い!」「アニメ見るときは定規を持って枚数かぞえなきゃ!」みたいな意図は一切ありません。その人が見て感じたものが何より尊重されるべきものだと思います。

これからもちょっとずつこういう記事が出来たらいいな。。。

以上です!

 

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*1:テレビアニメでは1秒を24コマに分割して、そのうち3コマに1枚絵を入れるのが一般的だそうです。なのでヒトは実質1秒に8回動いています。だけど背景は横にスライドさせるだけなので、1秒に24回動いています。

*2:これは背景に限らなくても、ピッチャーが球を投げるとき嘘みたいに勢いをつけたい時とか、色んなところに出てきそう

*3:他に注目させたい部分があるなら窓を白塗りにしたり、情報量の無いただの壁にしてもいいはず。背景をレイヤー分けするのは映っているものの間に距離があるとき。他にも山々の風景やビル群を魅せるシーンなんかで使うとスケール感やゴチャゴチャさが出せていいよね

*4:ここでは頭が一番下がる1コマ目にA(一番髪が広がる絵)を割り当ててますが、地面を踏んでから1テンポ遅れて髪が動くように、2コマ目をA、3コマ目をB...とちょっとズラしても質感のある揺れ方になるかも…?色々できそうです

*5:もう少しきちんと言うと4.の時のように1枚を使いまわして作るということではなく、シーンによってはほぼ動かさなくてもいいんじゃないかな?という意味合いです。

*6:むしろ主人公たちを差し置いてモブキャラのポニテが揺れているところに視線を誘導されたことに、まんまとしてやられた感があります。ずるい。