2021年 春アニメの感想

夏アニメも始まってしばらくなのにまだ感想文が終わらない!
今ある分だけ先に出して随時更新にします。

春アニメおもしろかったね。[8/6 書き終わりました]

<更新履歴>
2021/07/16 灼熱カバディ
2021/07/17 バクテン!! / 86 / 戦闘員、派遣します!
2021/07/19 不滅のあなたへ / Vivy
2021/07/22 スーパーカブ / さよなら私のクラマー
2021/07/25 シャドーハウス / SSSS.DYNAZENON
2021/08/06 (EDENS ZERO / バトルアスリーテス)
      ワンエグ特別編 / やくならマグカップも

 

極主夫道

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 今期いちばん笑ったアニメでした。大好きなのにNetflix独占配信で誰も見てない。『Back Street Girls -ゴクドルズ-』と同じ制作チームの15分放送で、原作は『極道主夫』だけどアニメは『極主夫道』。

 原作のお話が好き、マイルド極道が好き、主役の声優さんが好き、の普段アニメで見ようとするところを全部すっぽかして笑うバグみたいな時間でした。ストーリーは名前の通り元極道が専業主夫として全力で家事をするお話です。やっぱり家に帰ったら愛妻家の極道がエプロンかけて料理洗濯こなしててほしいと一度は思うでしょ? 家事なめとったらあかんねん、大変なんだから。

例えばこれはある回の見出しなのですが、

元極道で、今は露天商としてクレープを売っている虎二郎に偶然再会する龍と雅。バルコニーでハーブを栽培し始めた龍は、警察に目を付けられる。

もう面白そうじゃないですか?? 暇なとき落ち込んだときに見てみませんか。

 

 

ドラゴン、家を買う。

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 優しさのあるお話、夕方にやっても大丈夫そうとか最初のほう気楽に見てたのがどんどん変わって、最後まで楽しかった上でしっかりしたストーリーラインもありその美しさと世界観に惹きこまれたアニメでした。

 ドラゴンと魔王が内見の名目で世界中を巡りながら家探しをする物語、というのがまず面白くて、やりとりも軽く丁度いい感じがありました。でも不動産界の魔王って名前は本当に強そう。あと主人公として永遠にドラゴンを描き続けなきゃいけないのが死ぬほど大変だなぁと思いながら見ていました。8話のピーちゃん回もすごく可愛いかった…! レティさんは飛べないし火も吹けないし甲斐性なしだけどちゃんと守るものがあって大切にするし、ピーちゃんもそんなパパを慕ってるところが好感でした。

 そうやって家族を持つこと、ディアリアさんとツダケンドラゴンとの回想、ネルさんの家出、と経るごとに”色んな種族の家にお邪魔してはお断りする話"から、"1匹のドラゴンと魔王がこの世界を旅する話"にだんだん輪郭が増してきて、そこからの最終回がものすごく気持ちよかったです。終わりの場面にもう一度世界を見せるやり口が大好きで最近だとDr.STONE 2期の引きも印象的でした。あっちが今まで長く舞台だった陸の世界をお別れするように映したのに比べて、ドラ家は今まで出会った種族たちとその住居を振り返り、この世界が実は広くて面白いものだった、しかもそれは知識だけじゃなく旅をしたからこそ発見できた、ということを再確認できるものでした。家を探す内見の旅は名目だけじゃなく家とそこに住まう人々*1を見て回って、それは世界を広げる旅といえる締めがとても美しかったです。もちろんディアリアさんは過去の旅でそれを既に知ってるわけで。あの時ドラゴンから教えられた話と同じことを実感込めて話すレティさんがなんだか可笑しい。

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 ここから蛇足の妄想ですが、『ドラゴン、家を買う。』の作者(原作 田貫カヲ/イラスト 絢薔子)さんはかなりプライベートで情報が無い作者として言われてるみたいです。もしこの作品が、例えば軽いパロディも振り楽しいお話を作る小説家の夫と、ディアリアさんやネルさんのような細くて美しい線で彩る奥さんで一緒に作って、その独特な世界観が本になり、こういう形でアニメになり、、、って流れだったらめちゃくちゃ素敵だなーって思いました。妄想です。

 

Fairy蘭丸〜あなたの心お助けします〜

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 愛ってなんなんだーーー!!! 今期の視聴前にいちばん期待していたタイトルで、個人的に期待を超えてすごく楽しめました。大まかなストーリーは地上に遣わされた5人の夭精(ようせい)が悩める現世の人々を助けて代わりに"愛著"という感情エネルギーを回収するというお話。アイジャクは仏教用語で"執着心"や"欲に囚われた心"の意味があります。

 菱田監督作品で考えるよりも浴びるスタイルで待ち構えていました。これは変なアニメに見せかけてなんかあるやつ・・・。と1話に臨んだものの予想をはるかに超えるマシマシ具合に一瞬で何もわからなくなりました。ピザ頼んだらチーズ5倍Lサイズピザが来たような気持ち、もしかして本当にこのままギャグ100%で走り抜けるつもりなのでは?? キラキラの変身、たくましい内転筋、この世界にはオモテしかない(校歌)。朝アニメっぽい輝きのある目も好き。でもF蘭を朝にやったら間違いなく怒られるね。

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 1話で度肝を抜かれながらも、悪者をドカンと倒すのが流れなんだと飲み込もうとするうち、あれ?と思わせられる部分も見え隠れしてきました。この世界の悪役はとことん悪く、ゴートゥーヘブンして倒せば一瞬解決したように見えるけど必ずしもハッピーエンドに繋がらない。また醜さを持った人間は悪役だけでなく、時には依頼人側もかなり印象の悪いものとして描かれていました。他人に助けてもらうのを待つ悲劇の人とか 2話のお前の趣味キモいんだよ!で敵を倒すのなんて最近の風潮を真っ向から叩き切るような感じ。そのあたりを冗談でやってる訳じゃないのが3話ラストうるうさんが両成敗したあたりからハッキリしてきました。

 俗世は欲にまみれて人間は醜い、じゃあ夭精は? な当番回もたっぷり2周分。特に穢れを知らなかった子供時代と、穢れのある両親世代との関わりが重く描かれていました。2周目とかもっと具体的に傷を抉ってきてしんどかった…。変身シーンもお約束だけど、蘭丸くん達も例外なく変身ヒロイン(?)だったように思います。朝アニメのヒロインが可愛くカッコいい姿に変身するのはもちろん子供なりに大人への背伸びした憧れでもあり、だけど蘭丸くんたちは子供時代は過ぎて青年の姿でさらに変身をする。そこにはやっぱり憧れがあるはずで、昔食べ物で困った寶さんが(たくさんお金を持ってる今ですら)偉丈夫に変身したり、厳しく躾けられて認められなかったうるうさんが解放ではなく窮屈なハイヒールと鞭をこそ求めて両親の影を追う姿に、夭精の中にもどうしようもなく執着があるように見えました。切ない……このあたり妄想も楽しい。

 最終回でも大人/子供で改めて向き合う場面が必要なものでした。俗世の人達と触れ合い、その度に自分の醜い部分を見つめ直して、青年の姿で大人と対峙する。だけどここで掛けられる言葉が大きくなったのね、とかじゃなく「働けるんだな」なのがいかにもシビアでF蘭っぽさを感じました。大人になると働かなきゃいけないんです。もともと国が壊れた発端も女王が労働で心を壊したからだし、そこに組み込まれていく蘭丸くん達といい、どこまでもままならない世の中の見せ方が一貫していました。その話だとEDも面白かったです。歌詞をつまむと「働きたくない!世界万歳!あなた万歳!」でまあー哀しい。仏教国って貧しくても精一杯働くのが美徳なイメージ*2があるけど、美しいお釈迦様ポーズを後ろに流しながら働く虚しさを謳うの国が国なら訴えられそうなほど不遜で笑っちゃう。

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 真面目な感想を色々言ったもののうるうさんが個人的にストライクでずぶずぶとやられました。家庭環境に難があって成長しても求めるものが手に入らない、育った環境が人格になってどこまでも逃れられない子を無視できないよ。本当はどの人にも幸せであってほしいのに……それもまた、業。 

 

 

スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました

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 スローライフものにして疑似家族、アニメとしての満足度も非常に高いタイトルでした。大好きです。制作のREVOROOTは特に演出方面で厚い支持のある『バビロン』からの元請2作目にあたります。

 アズサさんが前世では会社員って言ってたけど実際管理職クラスだよね。こんな人が上司だったら絶対幸せな環境で過ごせるよ。無理して頑張ろうとする人へ言葉をかけてあげるのが特徴で、その優しさを受け止められる高原の舞台や家族との暮らしにスローライフ本来の味わいがありました。そうはいっても期限が…、とか言われないためにもやっぱり死んで異世界デビューしないとね。新キャラの「有名になりたい!」「バンドやりたい!」な気持ちに詰め寄るライカちゃんや冷静なフラットルテちゃんの指摘はかなり生々しく、決して悪意がある訳じゃないけどこういうこと絶対あるなぁって。そこをアズサさんがほんのちょっと支えて皆が幸せになれる。「10話 吟遊詩人が来た」とか何かをこじらせた事のあるオタクは全員好きなやつでしょ。とにかく人間ができてる印象で、例えば「血の滲む努力なんて人に見てもらう前提がある誇らしげな表現で、毎日こつこつやるのが一番良い」とか本当にそうだと思います。当たり前のことを当たり前にできるのが一番。難しいことだけどね。

 改めて1話を見てると、穏やかな暮らしは達成されてても驚くほどアズサさんの周りに穴が空いているのが目につきました。知らないうちにこんなに賑やかになってたんだ…… 街の人が歓待してくれても隣には誰もいないし、扉を叩く迷惑勇者も嫌々出迎えるようでした。でもそれはアズサさんが(300年も)保守的だっただけで「関わり方も変えてみる」12話では開店前から街の人が行列を作っていたり顔の見えないお客さんに扉を開けるラストにも繋がって見えました。いっせーのーせ!!で飛び込んだBrand New Meじゃん……。

 全体的なお話の雰囲気がすごくよかったです。一応なろう俺強っていうと身構える人もいるけどスキルは家族を守るために使われるし妹や娘たちも可愛いしですごく見やすかったです。ハルカラさんとアズサさんが並ぶとほんとに姉妹みたいでいいよね。前期のラストダンジョン前も出版元は違っても波長が合う感じで楽しく観られたし、より幅広い層に見てもらえるような時代の流れを感じます。まれに誰向けか分からない表現*3もあってもしかしたら原作はアニメとは違う雰囲気もあるのかなと思ったり。それから疑似家族なのが個人的に好き・・・弱点でした。誰も血が繋がって無くてもそれでも家族をするとき、そこにそうでなかった人の願いがあると思っています。願ってもあり得なかった夢の暮らしを叶えられるのは例えば小説の上で、やっぱり異世界に求められるものなんだろうなって。その暮らしがアニメになったとき、ちょっとした仕草でもそこに家族の息遣いが描かれるのがめちゃくちゃ嬉しい。そのあたりが雰囲気の下地にあったのかなと思います。

 アニメについて、1つの枠内で皆を映す場面が多く使われていたのが印象的でした。こういう多人数のシーンって出来ればやりたくない(大変……)なのですが、そこに人がいるだけでなく、一緒の食卓を囲んでいるとか同じ時間を共有しているところを見せられるのがやっぱり嬉しかったです。こじんまり纏まっているだけではなく時にはファルファちゃんがシャルシャの手を引いて走り去るようなシーンもあって、そのときはアズサさんが心配するような視線を送ったりと、一層心の繋がりを感じさせる演出がとても嬉しかったです。画面の中にキャラがいるだけでなく、この世界に家族でいるとはどういうことかが徹底して描かれていました。

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その意味では「6話 リヴァイアサンが来た」は一際目を惹かれた回でした。いわゆるグロス回*4と言われる回ですが決して6話だけが良かった訳じゃなく、続く7話を含め全編目が離せませんでした。このあたりでBD特典を眺めながら正座して見るようになった覚えがあります。最初1人だったアズサさんから続々とキャラが増えてくるストーリーに沿って、その人がどんな性格でどういう動きをするのかが息遣いたっぷりに伝わってきました。中でも個人的にはロザリーちゃんが特にいつ見ても楽しかったです。"幽霊ネタ"って何回も繰り返すうちに陳腐になっていくと思うのですが、ロザリーちゃんの出て来るシーンはどれも自由で伸びやかな画面使いかつ浮遊霊だからできるカットの角度や仕草の面白さがあって、飽きさせるどころかむしろ大きな魅力になっていました。

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「私、死んでよかったッス!」 ってすごい台詞だよね・・・。

 

究極進化したフルダイブRPGが現実よりもクソゲ―だったら

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 ああ、いま深夜アニメを見てる……。1クールに1本は取り置きしたいアニメでした。 原作者の同じ『慎重勇者』がハチャメチャに楽しいアニメだったので視聴。OPを歌う前島麻由さんはMYTH & ROIDの前ボーカルのかた*5で、登場キャラがシルエットで出て来る演出にもリスペクトがありました。

 この世界のナイフはりんごを切れる。ファンタジー世界でもこっちはより暗めなテーマでした。アニメで現実味をやるといっても色々あって、例えば隣の『スーパーカブ』が白飯の上にサバ缶を乗っけていた横で、フルダイブRPGには現実の不条理や嫌な部分を集めたようなリアルさを感じました。笑わないでって言った話に爆笑されるしおじさんプレイヤーも教官もとことんダメ人間だし、悪を煮詰めたような話が続くときもあったけど不思議と続きが気になって軽い気持ちで視聴できました。「お前がこの先生き残る確率は0.1%だ!」とか言われたらムカつくけどつい気になる。治安がやばくて誰も信用できない中に出てきたテスラとかいう人、やっぱりヤバいやつじゃん……。EDの獣みたいなパートは何回聞いても笑っちゃう。

 

シャドーハウス

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 視聴前から異様な存在感を放っていたアニメ、キービジュアルの訴求力からしてすごいよね。制作はCloverWorksで、最近は『富豪刑事』『約束のネバーランド』とお茶の間でも流せるシリーズやテレビドラマ系列の脚本家を立てることも多い印象です。

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 シリアスで難解な展開を予感して身構えたものの、1話は驚くほどに楽しさと見やすさのあるお話でした。エミリコちゃんの明るさが全てを照らしてくれる。かつ今はまだ行けない場所とかもあってワクワクして見られました。ほとんどの場面が台詞で説明されて進むのは捉え方次第だけど、分かりやすさの面では一長あるのかな。個人的なお気に入り回は9話、長身のショーンにリッキーが上から睨みを利かされるところとか。プライドの高い金髪が背も高いわけないんですよね。9話はリッキーくんの唯一の表情を見られるところもあり本当に好きな場面です。途中から知ったのですが、生き人形とシャドー家の人って同じ声優さんが担当してるんですね(エミリコ&ケイト組を除いて)、演じ分けが凄くてそこを聞くのも楽しみでした。

 全体の構成以上に単体のシーンが光っていた印象です。エミリコちゃんの豊かな表情も相まってTwitterに流れて来ない日は無かったくらい。例えば下の場面なんかはパッと心を掴まれました。まだ生き人形がヒトか人形かと言ってた頃、エミリコちゃんの居住まいがどっちとも付かない様子が想像を膨らませるようで*6。パトリック様の箱を覗くところとか笑っちゃうくらい強調してエミリコちゃんを象徴するような場面でした。このアニメで間違いなく太陽の女の子だよ。そしてここまでひたすらに暗い画作りだったからこそ、最終話で光を描くのが万感を誘うようなグッと来るライティングでした。

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 そして何と言っても動きを含めた表情がとてつもなく気持ちよかったです。という訳で私のイチオシなリッキーくんの好きな場面を紹介します。まず6話から、最強の女の子を目の前に頬を染めるリッキーくん、そうやってすぐ赤くなるから。ルウちゃんの前でも簡単に照れるし将来が心配です。次に横を向いたときのリッキーくん。睫毛がちゃんと長いんですよ、美人です。いかにも狡猾なことも考えるけど絶対悪いこと出来なさそう。庭園迷路だとフル装備になるのも可愛い。全部着たかったのかな。最後にパトリック様からあの日のことを告げられるリッキーくん。どんなに憎めない表情をしても真ん中に忠誠心がある強さ、命を懸けた行動を回り回って一番大切な人に褒めてもらえるの、よかったね……

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スーパーカブ 

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 「スーパーカブが必ず助けに行く」個人的には今期で1話分を見るのに一番長い時間がかかったアニメでした、何度も見返したくなるような質感がほんとうに気持ちいい。制作のスタジオ櫂は前期『ウマ娘 Season2』をやったことで有名です。

 前半と後半でけっこう印象が変わって見えました、小熊ちゃんが赤いアウターを着始めたくらいから。前半は何も無い主人公がカブから少しずつ自分の好きを手に入れていくような、後半は自由さとカブの魅力をよりアピールするような感覚がありました。なかなかこういう印象も珍しくて、ただし移動の道具であるスーパーカブを通し世界を広げていく姿勢はどちらにも一貫して見えました。11話の台詞、「私がスーパーカブで助けに行く」とかじゃないんだよね。カブが人を追い越してる。

 このアニメを見てるうち、なんでそんなこと知ってるの? って感想を何度も持ちました。そこに椅子があるのに立って朝ごはんを済ますとか、レンジに人が並んでるから温めずに食べるとか。怖いくらい人の生態を浮き彫りにしてくるよね……。中華丼パックとかの身近な物だけでなく、間の取り方、ちょっとした行動や音、これが楽しいよね! っていう着眼点にも実在感があり、それらが台詞の切れ間にじっくり表現されるのも心地よかったです。6話で修学旅行に自力で行く小熊ちゃんが空き家を見るシーンがあって、個人的にはここがビックリでした。家見るのって楽しいんですよ。普通遠くに来たら名所を探すけど見るのは何処にでもある家、しかも空き家だから(住む人の暮らしを想像して……)とかでもなく。この感覚がアニメの視線と同じ意味とは限らないけれど、少なくとも自分なりの価値観で物事に接することや、それらを見せる各場面での現実度が凄まじかったなと感じています。

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 実在感は実感にも繋がり、小熊ちゃんの風強くて嫌だなーーとか、それを越えた達成感も自分の体験のように味わって観られました。1話の”何もなさ”もそうで、何もないところから不意に大きいものがぽっと現れること、自分の手の届く範囲にそれがある愛おしさ。そしてカブを足掛かりに昨日より少し遠くまで手を伸ばせるうれしさ。このあたりが生の手触りで流れ込んでくるのがたまらなかったです。前に行った場所を通り過ぎていくところも好き。面白かったのが、前半こそ小熊ちゃんを通して実感を伴って見ていたのが、だんだんちょっと遠くから眺めるような気持ちになり、最後は手を離れてぶっち切って行くような感じを受けました。決して実在感が損なわれたとかの意味じゃなく、この世界の中でどこまでも自由に動き出すような。こういう感覚をキャラが生きていると言うんだと感じます。

 全体を通してアニメとしての美しさ、メディアの上でお話を再構成する力は頭一つ抜けていたように思います。例えば4話「アルバイト」は大好きな回です。往復、職員室、オイル交換と同じ場面の繰り返しをやる中に微かに、でも着実な変化と積み上げがあって、それらを飾り気のない映し方で、かつ鮮やかに写した回でした。小熊ちゃんが真っ白だった夏休みのカレンダーを1種類で埋めていく間、お爺さんの腰を逸らす癖に顔を向けるようになったり、職員室で出されたお茶を飲めるようになったり。しかも働きかけるのは小熊ちゃん側だけじゃなく、お爺さんはバイクを買った女の子を覚えてくれてるし、文学の先生はタオルを渡してくれる。*7ここが何となく今までの壁のあった世界から許されていくような感じがしたんです。なにもなかった小熊ちゃんは礼子にだけ助けられたんじゃなく世間ともお互いに少しだけ手を伸ばし合って、それは1,2日で何とかなるものじゃなく長い時間の積み重ねの中に描かれて、その間には常にカブがある。今まで関わることを避けて諦めた人が自分に出来ることを増やしていくのが嬉しいし「ざまーみろ」も雨だけに向けた台詞じゃないのかも、と思ったり。何度見返しても面白くて美しいお気に入りの回です。

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さよなら私のクラマー

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 ストレートな爽やかさのある春らしいアニメでした。原作は『四月は君の嘘』の作者だけど制作体制は変更。君嘘のときも同じだったけど不思議な感覚があって、シンプルで見やすいのに後半につれてどんどん惹かれ、あれっ面白いな…? と我に返される感じがありました。特に声の演技にもグッと来ました。EDも物凄く楽しい。

 1話から、このアニメの向き合っている相手はリーグ優勝以上に女子サッカーの未来そのものというところは心づもりがありました。なのでどうオチを付けるのかは色々想像しながら見ていました。ワラビーズが強豪を倒しても問題は終わらないし、なんなら最初から強い久乃木や浦和邦成が未来を担ってもいいじゃん、とか。だから浦和からの「なんで蕨なんかに入ったんだ」は改めて踏み込んだ台詞だと感じました。ただでさえ余裕のない女子サッカーならチーム単位で争ってる場合じゃなくスター選手を集めて世界を見なきゃいけない。だけどそんなのは全部都合の話で、忘れてはいけない純粋な楽しさの方を選ぶ。若干マッチポンプさも感じたけど気持ちのいい終わり方でした。女子サッカー自体がスポーツの中で逆境、1周り小さくしたワラビーズもまた色々なチームの中で逆境で、その中を強く駆け抜けていく意思のようなものを感じたお話でした。

 

バクテン!!

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 たまには立ち止まって空を見上げる。今期一番ポジティブな気持ちで観られた大好きなアニメでした。成りたちは東日本大震災から10年目の応援プロジェクトで、東北を舞台に男子新体操をテーマとした今期のノイタミナ枠です。こう言うと属性もりもりだけど内容はとても真っ直ぐで、ノンストレスな展開に爽快感がありました。そして動き付けとライティングが本当に素晴らしい。1話で双葉くんが見た光景の通り掴みから圧倒的に魅了されたアニメになりました。

  寮生活をする話って衝突が付きものだと思っています。一緒に生活する中で相手の色んな部分が見えてくるし、仲直りしたり乗り越えるまでにドラマがあってその人の内面を深く知れる、そういうところが好きでよく見ています。『バクテン!!』も同じで何度も雰囲気悪くなりそうな事があるんだけどその度にすぐに周りがフォローしてくれるんですよね。部員の衝突も多くはシロ高の人を相手にバチバチやってて、アオ高の寮自体はすこぶる健康だったり。このあたりが爽快さの1つだったかなと思います。かつ内面が薄かったわけでも無く、5話幽霊回のキャプテン自慢(旦那自慢…)とかにっこりが止まりませんでした。特徴量の多いキャラデザもハマっていたように思います。公式ボイスドラマにもたくさん更新があるよ。。。https://www.youtube.com/watch?v=XeH0fdeUusc

 アクションの美しさも然り、話数単位では「5話 かくれたい!」と「11話 全力で、思い切り!」が全体のコントラストを制御しきっていた点で非常に優れて見えました。5話は語らいがメインでかくれんぼは都合のようなものですが、このかくれんぼがずっと面白い。夜の暗さが続く中で単調ではなく、幽霊なんていないよな? って時は意外に明るかったり、かと思うと怪しい人影は闇の中を縫うようで、細かい物も含め光を使った遊びで進んでいき全く飽きさせなかったです。影を落としながらの男子トークも相手の心の深いところを覗くようで。11話もシンプルさの上に 悔しさ 涙 喜びの気持ちを陰影のメリハリとそこに至る仕草を通して押し出してくる凄まじい回でした。冒頭のキッと力を張って項垂れた先に朝日が差してるところとか、泳いだ視線がメンバーを追っていく一連に言外の思いやりが滲み出るところとか本当に凄い。そういった仕草はただ美しいだけじゃなく、ここが作中で一番重くなるスポットだった分、今までのポジティブなバクテンらしさを潰さないままどっぷり感傷にも浸らせてくれる素晴らしい回だったと感じています。

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 個人的に目の下に化粧入るデザインがめっちゃ好み。劇場版もあります! 双葉くんの一挙一動にまごまごする美里さんをもっと詳しく観に行こうね。

 

灼熱カバディ

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 #1 カバディってなんだよ 『バクテン!!』が空のイメージだったのに対して同じ室内競技の『灼熱カバディ』は地を這い最後のセンターラインへ喰らいつく意地のアニメでした。

 皆そうだと思うけどまず「カバディってなに?」の所からでした。ネタ色が強いイメージしかなくてギャグアニメが始まるのかな、とか。でも競技説明も分かりやすく見ている内に偏見はすっかり消えていました。カバディって面白いじゃん……。毎話ひたすらにカバディをやる中で実はこういうルールもあるよって小出しに来るのも助かって、奥深さも順を追って分かったり。『灼熱カバディ』はスポーツを題材に何か別のことを見せるというよりも、マイナースポーツの面白さそのものが真ん中に来るお話だったので、競技が分かりやすいのは非常に大切なポイントでした。オタクが好きな物をオススメするときもこうあってほしい。

 特に「#3 灼熱の世界へ」はワクワクが高ぶって止まらない激熱の展開でした。1年生チームが先輩チームにリベンジする回。普通3話もあれば色んなイベントがあるのにこの人達ずっと部内でカバディやってるよ……。新しいことを始めて色々試してるうち不意に(あれ、楽しいかも?)が湧き上がってくる瞬間ってめちゃくちゃ良いよね。それだけでも嬉しいのに、その感覚を既に知ってる先輩からカバディの楽しさはこんなもんじゃないぜ、って発破をかけてくるのがゾクゾクしました。特に表情が良くて、試したことが失敗したり成功したときの抑えきれない楽しさが直に伝わってきました。

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 このアニメの主人公は宵越くんだけど、個人的には王城先輩の存在が強すぎて食われながら見ていました。最強のレイダーにして最良の部長、今期のアズサさんと揃って人格者ランキングのトップでした。自分が誰よりも強くある上に部員への指導とメンタルケアまで完璧……。経験の浅い畦道くんには最初からあれこれ言わず”今は楽しむことが一番”って接して、その後一回り大きくなった畦道くんを見て今度はしっかり教えたりとか*8。克己心のある宵越くんが今まで間違いだったか悩んでるときは、自身が強いことを揺るぎなく示せるからガッツリ否定になって励ましてくれたりとか。キリが無くなっちゃうけどあまりにも完璧な人として見えました。だけど決して完璧じゃない、ゴリマッチョらがひしめく中で明らかに体は遅れてて限界を超えて怪我もする。なのに最強であり続けるカバディへのストイックさ、自分が信じるものがあってそこに限りなく真摯なのが何よりも凄みがありました。最終回、点を持ち帰った宵越くんを皆で囲って喜ぶけど部長だけ視線が違うんだよね・・・。そこまでしておいて井浦先輩の前だと可愛い表情もしたり人の家に肉じゃが持って押しかけてこられたら完全にズルなんです。

 11話の引き、最終回に向けてピンチに陥るときの理由が「宵越が不調だ!」とかじゃなく「あの部長が点を取られた!」だったの、それほどに部長の存在感は大きくてチームにとっての屋台骨だったと感じています。個人的に今期で一番続編が見たいアニメです!

 

戦闘員、派遣します!

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 実は見ていました。1話はどんなアニメかと居住まいを正してたけど、OPのフルートが流れた瞬間にすべての視聴感を理解し自宅スタイルで見てました。おせんべいも開けられる。

 暁なつめ原作『このすば』シリーズのさらに前にあたるタイトルで、当のパートを含め色んなところにリスペクトがあり記憶の端に引っかかるのも楽しかったです。度の過ぎた下ネタが面白いかは人によるとして、元気いっぱい食欲もりもり戦闘キメラがかわいかったのが視聴モチベでした。『旗揚!けものみち』も似たような感じで見てたかも。恒例なのんびりEDも好きです。4人並ぶところ何かすっごく2000年代アニメっぽい。ぽいにしてもまさかこの時代に爆発オチが見られるなんて・・・! 令和アニメの未来もまだまだ輝きを秘めてるね。

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良くないことだけどダンディーな声をしたトラ男さんが犯罪的なこと言ってる隣でVivyのオフィーリア編やってるの混線が起こりそうでした。

EDENS ZERO

 春のAI祭り、少年漫画のど真ん中を征くようなお話でした。少年漫画アニメも好きでよく見るのですが、私自身が好きなところと作品の方向性がちょっと合いませんでした。

 1話がものすごく良くて視聴のきっかけになりました。笑顔しか出来ない硬い機械達が、旅立つシキくんを見送るときの変わらないニッコリした顔がとても清々しく見えて。EDも好きです、入りのドン ドン……が始まったとき1話分の満足感が来るようでした。

バトルアスリーテス大運動会 ReSTART!

 楽しく見ていました。ただ私の力不足であまり視聴感を合わせられませんでした。印象として現代アニメでは滅多にお目にかかれないような表現が見えて面白かったです。黒ベタ入れる悪人顔とか。宇宙刑事さんが「公務員も楽じゃないねぇ」で助けてくれるのもコテコテで笑ってしまいました。ピンチをCM挟んだ宇宙刑事の登場で切り抜けてもいいんだね。

Vivy -Fluorite Eye’s Song-

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 100年の旅を巡るSFドラマ超大作、世間の期待も大きくプレッシャーのかかるタイトルだったと思います。圧倒的なアクションと美術は理解レベルを超えるものでしたが、そういう意味だと1周回って楽に見ていました。制作のWIT STUDIOは大人気スタジオかつ仕事がパンパンで前期外れた進撃の巨人Finalの裏で抱えていたラインの1つがこのVivyだったり。総じて毎週ワクワクして観られました。

 1話スタートで燃える街が出てきたとき、この人は虐殺シーンや人死にを書かなきゃ気が済まないのかな……とか。というのは作風だけど全体的に設定が分かりやすくされている印象はありました。使命というキーワードだったり「このタワーが伸びるとやばいよ!」って視覚的な指標もあり、より多くの人に見てもらえる内容だったのは一側面かなと思います。

 旅の中で色んな出来事や出逢いがあるごとに瞳のアップが入る、OPの高速で流れてくところを改めて見てると今までアップになった時の反対側の景色(ヴィヴィの見てた景色)がつぶさに入っててすごい。記録ではない記憶は目から入ったもので、逆に目の光が消えるのは記憶を失う意味でもありました。かけがえのないものを失うのは切なかったけど、トァクの人の「お前のせいで不幸になった人がいるのを忘れるな」的な台詞があったように、歴史修正には代償があって然るべしなのかな。だけど変わった後の街並みは確かに幸せそうに見えました。

 

不滅のあなたへ(~12話)

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 今期必見の名作でした。全20話予定なのでグーグー編が終わる12話までを書いています。NHK放送の大河ファンタジー、監督・演出は最近だと『神之塔』を一話分やりきった物凄い方。

 まず1話のつかみが衝撃的でした。絶望のときに笑う表情、過酷な境遇で話し相手も犬しかいない中、取り繕った台詞の切れ間に現実が描かれて、それが徐々に切羽詰まっていくまで。ストーリーの骨になる、人が生きてあがく様をまじまじと見せつけられた回でした。1話での物を食べる仕草だったりまだ何も語れない犬の表情も素晴らしくてここからグッと惹き込まれた覚えがあります。

 一方で人の生き様は悲哀だけじゃなく、2話からのマーチ編はポジティブさもいっぱいに詰まっていました。マーチ自身が明るくて面白いのもあるし、果物をぽいぽいする所とかデフォルメもここぞというタイミングで効いていて。実際あの頭身ってかなり動かしづらいと思うのですが全身全霊を使った振り付けもとても楽しい場面でした。苛烈で劇的な話があるからこそ、逆のこういう生活パートが目いっぱいに楽しいのは気持ち的にも嬉しかったです。それからマーチ編の最後……OPがズルくないですか? 大人になりたいマーチの成長した姿がOPで出てるから何となく先の展開も予想してたのに、、、このあたりでいよいよ覚悟をキめて見ていました。

 7~10話までのグーグー編について、ここも本当に面白かったです。これまでの、境遇に潰されて引き返す話、境遇から抜けても後悔がある話に続いて、境遇を受け入れながらも抗って強く生きる意思のようなものを感じました。グーグーが可愛くて意地っ張りで…… 今までとはまた変わりお節介お母さんのような気持ちで見てました。せっかく家に好きな人が来てるのに家出してる場合じゃないぞ! 前のこともあったので森でリーンと別れフシを助けに戻った時はここで終わるんだと思ってました。だから生きて立派になってしかも好きな人とも続いてるのがもうたまらなく嬉しかったです。11,12話については本当に感極まってしまって、ちょっと言葉にできない思いです。だけど確実に今期を超えて年間でトップレベルに好きな回になりました。

  全体的な描かれ方について、印象に残ったシーンがとても多かったです。絶命した主人をまたいで呑気に歩み寄る犬だったり、オニグマがガオーッ! って出たときの恐ろしさ、グーグーが思わず恋をしてしまうような女の子も。アニメーションとして美しいのは勿論、それが人となりや体験、ひいては人の生き様を鮮烈に表現するものだったからこそ、ここまで心を動かされたのだと思います。

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 OPでシーン回想に重なりながら映る炎の王子様がめっっっちゃくちゃカッコいい、そっかこれはあり得なかった姿なんだ…………

 

86―エイティシックス― (第1クール)

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 電撃文庫×A-1 Picturesのタッグで例に漏れず高いクオリティかつ抉るような切れ味が印象強いアニメでした。監督は演出上がりの初監督作品にあたるので気合入ってるなーーと思いつつ見ていました。

 大まかなお話としては、白系の人種が有色系の人種を"86"と名付けて戦場へ送る迫害と断絶がある中、白系のミリーゼ少佐が異を唱えるところから始まります。マジメな堅物ちゃんが馬鹿にされる筋書きってどうにも苦手なことが多くて、共感性羞恥みたいなところが働くのですが、ただ86は視聴断念するほどでは無かったです。笑いものにしてやろうって悪意よりも、理想論を掲げる人と現実で戦ってる人の違い、人種や価値観にも違いがあることをまずはクッキリ示す方へ重きを置く描き方を感じました。ほぼ毎回ゴリゴリに緊張感のあるストーリーなので、自ずと真に迫る演出が増える印象です。毎話ホラー回みたいな。そういうのって腕の見せ所だしやってて楽しいところだと思います。

 その中でも例えば3話の涙が吊り上がるラストは鋭さ極まるシーンで、最初見たときは息を忘れました。86の一人が死んでデリカシーの無い泣き言を繰り返す少佐が激しく責められる場面。平等を謳い86の人達とも近づけた思ったのも束の間、絶望的な区別が自分の中にあったことを指摘されるとき、暖かい屋敷で長電話していた時間は一転して冷たい籠の中の部屋として映ります。折り返して上に落ちる涙はその気が触れそうなほどの逆転を表すようでした。加えて命の価値の上下関係が剥き出しにされたこの場面で、お高い人は高いまま、涙を落とす事すら許されない厳しい批難のようにも感じました。

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  エゲつない仄めかしは枚挙に暇がなく、自死に向かう旅立ち前のてるてる坊主は首吊りにも被るし、9話の通話越しで「赤い花が踏んだらすぐ散る」ってそれヒガンバナって言わない…? とか、紅葉の葉をくるくる回して5人のうち次はだれが死ぬかなーとか。やめてあげて・・・。なまじ美しいカットの上に気合のこもった演出が特盛なので、その目論見通りに精神にダメージを負っていきました。でもこういうの嫌いじゃないんですよ…… 辛いのがじゃなくて、こうしたら面白く見えるかもって工夫をいっぱいに用意するのが。

 1クール目の締めは相当やりきれないエンドでした。でも原作勢からは1クール目は序章でここからが本番という話もあり、まだまだ魅せてくるアニメになりそうです。期待大です。

 

SSSS.DYNAZENON

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 相互理解のお話。幾つもの"分からない"を描き、問いかけ、最後にちょっとだけ前進するまでの物語でした。作品全体が視聴側にも丸々同じ体験を投げかける作りになってたのがとてつもない。

 1作目の『SSSS.GRIDMAN』と同じくテーマは青春群像劇と特撮、ただしSSSS.の意味は変わって Scarred Souls Shine like Stars. グリッドマンのときは人の魅せ方がすごく印象的でそのあたりを期待して見始めたのですが、併せて今作はストーリー性にも心を掴まれたアニメになりました。暦さんのぐちゃぐちゃな部屋が映ったときとか今期も来たぞ~~って思ったよね。

 序盤は捉えどころのない飄々とした印象でした。蓬くんは決まってバイトに行っちゃうし怪獣はインスタに載るし。合体しながらOP主題歌が籠もって聞こえるメタ表現も笑っちゃって、3話の田んぼで戦うところなんてこのアニメはお笑いなんだと思うほどでした。でも笑う中でずっと引っかかってる場面があって、私の場合それは壊れた街にかかるランドセルでした。GRIDMANのときは不思議な怪獣が街を修復してたけど、今期はあの軽いやり取りの中で確実に犠牲者がいた訳じゃないですか。でも直接的なことはなにも描かれず、ぽけーっとした雰囲気の裏で何かとんでもない事が起こってる……と悶々としていました。

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 散々オモチャ感マシとは言われつつ死までオモチャにしないでよ、と思わされたのが5話プール回でした*9。「飛び込まないでくださーい」って言う人のところ。あのとき私笑ったんです。でも後々よく考えたら”水に人が飛び込む”ってお姉ちゃんの笑えない死因のモチーフでもあって。そんなの当時分かるわけないんだけど、不理解を盾にしてもあの時確かに笑った自分といじめ動画の中で笑う人たちに区別が付けられなくて、それが物凄くショックでした。「あれは事故じゃなくて自さt」の引きとかほんとに……。5話くらいから徐々に殻が剥がれて真っ黒いものが見え始めるようでした。

 また、このあたりだと蓬くんの印象がまだあまり良くなかったのも覚えています。6話、南さんの横で柵に足をかけるのが無遠慮に見えたのも一つでした。死んだ姉の真意を追う南さんにとって水門や死に近い場所へかけるのはそれなりの意味が生まれる行為で、少なくとも見た人が簡単に立ち入れる場所では無いはずです。シズムさんも並ぶような事はしなかったのに、蓬くんはそういうの察してくれない人なのかな・・・と思ったり*10。9話時点だと姉の彼氏なのに助けなかった最悪人間と会ったとき、うずくまる南さんを置いてほんとに怪獣退治に行くところとか。いや怪獣は大切なお仕事だから「行って」なんだけど、なんか・・・もうちょっとこう・・・「分かった」では無くない・・・? って、そういう時ガウマさんがお前迎えに行ってこい!って支えてくれるのもスッキリでした。ただそこから10話11話と経るごとに、蓬くんは実は思ってたような人じゃないかもしれない、と改めて疑問がわくようでした。確かに完璧な人間じゃないし不格好だけど好きな人のためなら小さなヒーローになれる、この世界で”救いに来る”ことが出来るのはロボットじゃなく人の意思なんだね……

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  12話まで見てやっとこのアニメが理解・不理解をやる話なんだと1つ分かった気がしました。蓬くんと南さんの間もこれだけ長く関わっておいて、南さんって結構冗談も言う、のが分かっただけ。でもこの1歩がすごく大きい。

 序盤からの意図的な分からなさもズバリ私たち側にとっての不理解で、一度気付いてしまえば驚くほど色んなところに納得がいく話でした。理解の出来なさはあらゆる間にあって、禁欲主義と快楽主義、ヒーロー側と怪獣優勢思想のメンバー同士、または各々のメンバー内、個人の抱える問題でも。無数の関わりが張り巡らされて、そこに他人を知ることの困難がありました。この周到さというかドラマの組み立てがやっぱりすごい。一方で稀に理解(しているように見える)場面もあって、シズムさんがプール回で自分なりに理解しようと近づいたり、暦さんとちせちゃんが待合室で飴を噛むやり取りをしたり*11、怪獣側が仲良さげだったり。だけど一度分かり合った気になっても、掘り下げるほど他者との間にはどこまでも溝がありました。

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 完璧な理解なんて無いのに、それでも誰かを理解しようとするのって凄く大変です。そこで、理解を辞めちゃうという手もあります。作中だと南さんが怪獣を倒す楽しい毎日を受け入れてもいいし、ちせちゃんが暦さんのスーツ姿を拒絶してもいい。そうすれば望む物が手に入るし奔放に振る舞えるのだと思います。だけどヒーロー側が選んだのは「かけがえのない不自由」で、もがき傷付きながらも理解しようとする。傷跡は茨の道の先でほんの少しだけ近づけた証のように見えました*12。「○○って、なに?」と問い続けることがアニメを、引いては好きな事を理解しようともがく過程のようでした。

 全体を通して、大仕掛けの構成で登場人物・視聴側を一体にして主題の1つを見せつけるお話にはやっぱり圧倒されました。加えてバランスの差こそあれ人物単位でも突き詰められる物語があって、特撮に詳しい人ならロボットとも掛け合わせてさらに発見があるとも思います。特に相互理解の話って難しくなることが多いですが、DYNAZENONは難しさを多人数の目線から映しながらも筋が一本通っていて、ある意味噛み砕きやすさにも繋がっていた感じがしています。何度見返しても面白い随一のアニメでした。

 

ワンダーエッグ・プライオリティ(特別編)

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 事実上の冬アニメ最終回です。1~12話の感想はこちらに。

anime197166.hatenablog.com

↑の要点をまとめると、

・14才という子供と大人の中間にいる少女たちの葛藤が描かれる話だったこと。
・フリルちゃんは作られた存在で、少女のまま時が止まっていること。

あたりです。色々想像するのが楽しいアニメだと思うので、あくまで一個人の考えとしてはこのあたりをベースにしたいと思います。

  少女たちの結末について、12話の高台でバラバラな方向へ進んだ戦士達は別々の末路を進んだように思います。桃恵ちゃんの場合、夢の世界からドロップアウトする選択をしました。彼女にとってワンダーでキラキラした時代は単なる嫌な思い出に過ぎず、この先思い返すたび苦虫を噛む顔しか出来ないんだと思います。青春を捨て死の恐怖をいなし立ち回る姿は少女ではなく大人です。そして大人は卵時代の輝きを二度と取り戻せない、個人的には最も現実味のある生々しいバッドエンドだったと思っています。青春はたとえ過ぎたとしても黒塗りしていいほど無価値なものではないはずです。*13

  リカちゃんは目を逸らすのとは反対に万年やチエミの叶わなかった過去に縋って嗚咽しました。ただし「死んでやる」ほどの激情があっても、本当には死なない。そこが今までガチャで出てきた人達のような一時の感情で自死を選ぶ不安定さとは決定的に違って見えました。うずくまって痛みに耐える姿が、自分ではもうワンダー世界に入れないのも相まってやはりもう子供の態度ではないんだろうと思います。

  そして青沼ねいるは大人に進まず子供に戻る選択をしたように見えました。両足のスリッパを見つめてワガママーを選ぶ場面、あそこが分岐点だったかなと思います。アイちゃんに電話をかけるとき映る場所が草の揺り籠のように見えて、このアニメ風に言うなら卵の殻の内側にいるようでした。だから通話の内容も、もしかしたらアイちゃんを子供側へ誘うような甘い囁きだったんじゃないかな……とも思っています。

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 アイちゃんも現実に順応していきます。が、本編の携帯投げ捨て→お母さんの膝で泣く→皆とは疎遠に の流れが子供と大人の間を暴力みたいな振れ幅で描くようで視聴にも力が入りました。これですよワンプラは……。通話が子供側への誘いだとしたら携帯を捨てるのは子供でいる事との決別で、だけど直後に母の膝で泣くのは子供のそれです。「つらかった」の中には今まであった1人の人間では抱えきれないほどの様々な思い、葛藤が込められているように感じました。葛藤は(笑顔のフリルちゃんと違って)少女が成長するまでの糧になります。例えば皆と疎遠になるのはそれが熟すまでの時間と、ならではの寂しい現実に取り込まれるような感触でした。少なくともこの辺の思い切りや揺れ戻しのある感情を剥き出しに描くことはこのアニメにとっての肝だったと思います。時が過ぎて環境も変わる中、アイちゃんに限っては子供と大人のどちらかで決着せず両方でいられる人に見えました。それは未だに4人でいた頃の青春に胸をときめかせられることや、夢も現実も見られるオッドアイであること。そして”ないまぜ”ではない両方を知っている戦士にポジティブな期待感があるラストでした*14

 解決しないエンドには賛否あると思いますが、個人的には答えを出してはいけない話だったとも思っています。メタいですがこの話だっていい大人が書いてるわけで、その人が14才の当事者でもなければ、アカ・裏アカが興味本位で少女像を作ったのと変わらなくもあります。葛藤を描いたり各々の選択を示すことはできても、2人が永遠にフリルちゃんを理解できないのと同じで、どんな解答を用意しても不誠実だったように思います。それを押しても、輝きもグロテスクさも一体になった未熟な時代をこそ美しいとして描くのが心を掻き立てられるアニメでした。非常に難解かつ色んな捉え方が期待されている話だと思うので、ぜひ他の方の感想も見に行きたいところです。

 

美少年探偵団

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 とざいとーざい。その日どんなに落ち込んだ日でも美少年探偵団を見ればキラキラを取り戻せたアニメでした。まずはOPが今期必見の出来なので見てなければぜひ。

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 江戸川乱歩の少年探偵団に"美"をつけて『美少年探偵団』。タイトルで勘違いされがちなのとTV放送が2:00と奥深い時間でなかなか目に留まりにくいのが惜しかったものの、蓋を開ければシャフト×西尾維新という黄金コンビのアニメでした。詳しくはないけど。

 文字通り「美しさ」が常に物事の中心にあって、結構じっくりある探偵パートの中でもただ推理するのではなく、そこに美しさがあるかどうかを重視するのが面白かったです。星探しの回では子供の想像みたいに誇大な推理が実はその通りで秘密結社っぽい人たちが本当に出てきたり、ある時は密室に大きな物を持ち込む手段が床をくり抜きましたって何じゃそりゃなオチまで。探偵活動にはいつも少年が夢見るようなロマンと遊び心があふれていました。

 ”遊び”をやるに向けてシャフトが水を得た魚のようにメキメキに腕を振るってたのがたまらなく楽しかったです。やっぱり好きみたい。シャフ度とかって目立つしよく言われるけど、一番の魅力は基礎に裏打ちされた上で型破りをしても物を成立させられる技巧と、それを使って思いついたような遊びでも叶えられてしまうところだと個人的には思っています。だって「全部美しくやってください!」なんて無茶ぶり飛んできてハイとはならないよ……。1の事を言うために10の台詞を使うこのお話では小説じゃないアニメーションとしての役割は薄くなるのかなとも思いきや、そこに遊びと美しさがこれでもかと詰まっていたのが収まりも良くて見ている間は目をキラキラさせっぱなしでした。

 そんな輝きにあふれた毎日が続いていたから、筆頭だった団長の口から「遊びなんだから」を出してしまった場面が本当に堪えました……。皆団長が大好きで愛されてるんだよね、その一方で純粋な団長をお兄さんと関わらせなかったり、調査結果が夢の無いものだったら嘘をついて隠すと決めたり、メンバーはなんとなく今の輝かしい時間に終わりがあることを察していました。強い光に導かれお神輿にも乗せていたその上で真ん中の星、中学生ですらない団長もまた終わりに自覚的だったのがつらかった。。。

 その後憧島眉美が本当の意味でチームに迎えられる中で、今まで散々モチーフにされていた☆の美しい形が崩れるところが印象的でした。膝を突き合わせる場面は六角形を描くし*15、光を背に重ねる手は6本目が入ります。下衆にも見える1本が入り☆で無くなるにも関わらず美しいここが、かつて星を見つけられず14才で遊びは終わりとも言われながら美少年探偵団と過ごすようになった姿、団長が演説する憧島眉美のこれまでとも重なって見えました。たとえ星が無くても、遊びに終わりがあることを自覚しても、「夢を諦めることもまた美しい」ように新しい形で今の限りある時間を追い続けられる、、、までいくと考えすぎかも?

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 もう輝いていない大人になった後の姿もしっかり描かれるし、少年の頃の写真は偽りなくセピア色になる。終わりがあるから美しいを地で行く最終回でした。正直かなり切ないけど終幕として完璧だからしょうがない、、、えっ続くの? うそお!! あの流れでラスト続編予告されるのがほんとにビックリしちゃって、最後まで遊び心に翻弄されるアニメになりました。南北!

 

やくならマグカップも

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 今期のダークホース枠。陶芸や町おこしのテーマからさらに拡大して、物づくりに向き合う姿勢が非常に真摯でした。制作は日本アニメーション、古くから『世界名作劇場シリーズ』など主に子供向けジャンルでやってきたところです、独特な朝アニメっぽさにも親しみを感じました。

 年間でもトップクラスに大好きなアニメです。私自身はアニメが好きだけど、究極にいえば、誰かが届くべき誰かの顔を思い浮かべながら工夫をして一生懸命に作ったもの……が好きなんだと思います。アニメなら製作者から視聴者へ。だから姫乃ちゃんが「ビックリするかな~」ってルンルンでお弁当にミートボール隠すところも陶芸に限らずものすごく嬉しかったんです。

  1話からバッチリと掴まれました。例えばOPでは手桶のシーンの気持ち良さがたまらなかったです。マイナーな趣味をまずは陶器の美しさから見せてくれるのも良くて、視聴開始から一目で興味を引かれました。特に1話はラストの、暗い棚越しのシーン*16が印象深かったです。これから新しいこと始めるぞ!ってときに自分よりまず親がどう思うかを気にするんですよね。趣味アニメの始まりにしてはすごく現実的に見えました。画面の主役はもちろん大きく手前に映るマグカップ、だけどスポットライトが当たるのは姫乃ちゃんとお父さんで、このままでも狭く区切られた中で人並みに暮らしていけそう。ここがすごく良かったです。現実の人にとって趣味は余剰で、別に無くても死なないし、アニメのように急に自分はコレだ! と目を輝かせる事なんてそうそう無いんだと思います。それは姫乃ちゃんも同じで、ここに現実味があったから共感もできて主人公主観で進んでいくお話により入り込めたのかなと感じます*17。加えてこの場面でのお父さんは流れに掉さす邪魔者としてじゃなく、ちゃんと姫乃ちゃんが何を大切にするかの土台にもなってるんですよね。趣味がまだ始まってなくても思いは最初からそこにあるんだ。。。

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   何かをやろうとする人には必ず通る道があると思います。2話の台詞「スゴい物を作らなきゃいけないのかなって」もその一つでした。追うように3話では十子先輩と久々梨ちゃんの秀才・天才っぷりも見えて、何かを作るプレッシャーは確かな手触りで底を這っていました。横を見ればデキる人なんて一杯いるんですよね。2人が仲直りする場面は姫乃ちゃんと違って遠くから映すようなのもグッときました。

 4話『お茶漬けの味』は特に重要な回でした。初めて作った物の反応が期待以下だったら、もしかして心無い人にケチを付けられたら、立ち直れないですよ。私なら辞める気になります。それほど初めの一歩は尊くも柔らかい芽のようで守られるべきものだと思っています。そうは言っても秀才の作品が前にあれば初心者ながらに勝手に比べてしまうし、初作品がうまくいく訳も無いんですよね……。また4話は、1回目お父さんがお茶漬けを啜るシーンの作りも非常に魅力的でした。「食べ物ではなくお茶碗を主役に」「旨そうに食べる」を両立させるのって中々無いんじゃないかと思います。2回目だと食べた後にお茶碗が主役にならないです。でも姫乃ちゃんが去ってからちゃんと手作りの茶碗を眺める視線が優しくて……姫乃ちゃんはそれを見てないんですよね。

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 5話は肝を冷やした回でした。「好きなはずの物をやらないことにホッとする気持ち」って相当な話です。だけど必ずある気持ちだと思います。夕暮れの布団へ寝転がるように一つの好きが終わるには充分すぎるポイントでした。山越えを通して先が見えないまま歩くしんどさを友達や先生に励ましてもらうのは嬉しかった……けど、本当はこれでも足りないはずなんです。果ても分からずに好きを続けるしんどさは最強の敵で、人のアドバイスで解決したように言うのはどうかな……とも思っていました。また5話は回想以外では陶器が一度も出ない回でした。

 だからこそ6話『空と風の庭』が素晴らしかったです、個人的には一番好きな回になりました。モニュメントに圧倒されて最初に口をつく言葉が、綺麗だった とかじゃなく「どうやって出したんだろう、あの色」なんですよね。一度離れた陶器、好きな物を目の当たりにした時やっぱりどうしようもなく自分の中の好きが動く瞬間があって、それがたまらなく嬉しいんです。この感覚を知ってしまうともう後戻りできません。自分から湧く気持ちは5話のスランプに唯一勝てる回答でもあり、1話のお父さんに配慮する気持ちでも止められないほどの自分になる分岐点にも見えました。

 7話はじゃあ何をやろう? となったらまた手が止まるものです。久々梨ちゃんの「好きなことすればいいんだよ!」って言って出来るなら良いけど大抵ピンとこないのもリアルでした。隣で順調そうに進めてる人達がいるのに自分は始まってすらいないと焦る気持ちも。だけど考え続けてると急に点と点が繋がって面白そうなことを思いついたりするんですよね。ここは趣味だからこそ自由にできるのも嬉しかったです*18。お父さんの「なんかわからないけど作りたい!を大切にすればいいよ」もとても重要な事な上で、4話,5話とも同じく姫乃ちゃん自身が腑に落ちてないときは空とか別のものを映すのも印象的でした。この親子意外とすれ違ってるんですね。

  8話、やったーー!!! 夢の中で好き放題できて「平和だねぇ」で終わる回が嫌いな人はいません。フシギ世界っぽく明暗の効きも5割増しに夏の蝉が鳴いてる雰囲気も好き。竜宮城に潜るところとか帽子で背伸びするポーズはなにか過去アニメのセルフパロディだったりするのかな。

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 9話は一番楽しいときでした。何をしても好きな物と結びつけてどんどん発想が出て来るし、試行錯誤してはまた作る時期。本命に見えたザル型座布団が真っ先に割れたのはビックリしたけど得てしてそういうものだよね。波に乗った姫乃ちゃんが溌剌として笑顔でいるのが大好きな回です。9話は座布団をオブジェにする十子先輩の提案を選ばずに、使えるものを目指したことも印象的でした。自分のしたいことなんて急に言われても分からないし、7話時点では閃きレベルだったことも、その輪郭はやっていく内に見えてくるものなんだと思います。逆に最初コレしかやりたくないんだ!って飛び込んでも数年後には全然違うことしてたっていうのもよく聞く話です。開けてみなきゃ分からないよ。。。
 10話は直子ちゃん目線からのお話、変テコなイメージばかり強かった直子ちゃんが姫ちゃんのことすごく大切に思ってくれてるのがやっぱり嬉しかったです。この回は「ただの真似になっちゃうでしょ」「いいじゃん、真似で」がど真ん中でしたね。始めたての頃って何かとオリジナルであることに拘りを持ちがちです*19。でも上手くやる人たちは逆でどんどん資料を見て好きな人の作品を真似て吸収していくものです。これは本当に大切なことです。知らないけど。話をアニメに戻すと、お母さんと同じ色を選ぶことは6話の気持ちを迎えにいくことの一方で、お父さんが表情を陰らせていた懸念とも重なって見えました。つまり仏壇の母と同じになることは姫乃ちゃんが同じ末路を辿ることでもあるのでは……と。現実ではオカルト話でも物語では深刻なことです。でも念願の完成品は「目指した色とは少し違うけれど」なんですよね。憧れの作品の真似をしても同じではないんです。温度が上がるたび未来も変わるから。。。*20

 11話『賞がほしくなっちゃった』からはコンテストです。もうサブタイトルからしてにこにこでした。丹精込めた力作ほど、そんなつもりじゃなくても、何か一言反応が欲しくなっちゃうものです。それが心の奥で相手の顔を想像して作ったものなら尚更。姫乃ちゃんは一般的な評価というよりも、届くべき人の反応を期待するのが野心とは違う暖かさを感じました。野心でも全然いいんだけどね。いざ完成したものを出すとき(こんなもの鼻であしらわれるんじゃないかな? 誰も見てくれないのでは?)って不安になる気持ちも絶対に通る道で、その弱さも隠さず描き通すのがやっぱり真摯だなと感じました。紙芝居っぽく可能な限り優しく描かれていますが殺人的な内容ですよ。他にも絶賛される妄想をしちゃったり、自分でやってみると他人の作品の凄さが分かって急に自分のが馬鹿に見えたり……本当に。

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 12話、皆もOB先生の審査員が「これは個人的なことなので……」って口籠ったとき言って!言って!!” って思った? お爺ちゃんのアシストが超ナイスでした。結局賞は取れなかった姫乃ちゃんの区切られた構図がここで帰ってきます。いくら物を作っても使ってもらえないなら元の生活に戻るだけ、1話の引きは確かに幸せそうだったのに、でも好きを知った今ではこの枠が酷く狭苦しいものに見えました。この真摯なアニメが、もし優しくなければ、このまま審査員の人に褒められて終わりもあったと思うんです。自分勝手にどれだけ凝ったつもりでも本当に届いてほしい人がどう思ったのかも分からず晩ごはん食べて寝る日だって必ずあると思います。だけどやくもは最後に一番報われる言葉をくれました。1話から楽しさも苦しさもずっと積み重ねてきて、やっぱりこれに勝る報いは無いです。ぼろぼろに泣きました

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 全体を通して、お父さんの描き方もすごく良かったです。姫乃ちゃんが色々するのに合わせてお父さんもまたカレー作りに頭を悩ませていて。頑張る娘からただ与えられるだけの存在じゃなく、良い意味で同じ次元にいる人だったのが最後肩を抱くシーンにも繋がって見えました。毎話の演出と動きにも本当に魅入られっぱなしでした。大きいものは例えば4話,11話で窓越しに泣かない涙が伝うのはゾッとする気持ちでした。また6話モニュメントに向き合う瞬間や、そこに至る道中がシルエットを使って神秘的だったのもいざなわれるようにグッと集中させられて見ていました。細かいところでも例えば6話冒頭のアイスを食べながらのお話では、直子ちゃんのカットイン、姫乃ちゃんの視線移動も一番良いタイミングで決まっていて、夏の語らいをこういうやり取りとして見られるのがアニメの醍醐味だと思うほどに心地いい瞬間で包まれた時間でした。

 このアニメに2期あるのが本当に嬉しい……生きてて良いことってあるんですね。2期では十子先輩の家の問題や、新しく関わる人、陰に徹して陶芸もしなかった直子ちゃんのさらなる掘り下げ、好きのスタートラインに立った姫乃ちゃんの「次」という新しいプレッシャーを前に作る物、とワクワクが止まりません。今から秋が待ち遠しいです!

 

ゾンビランドサガ リベンジ

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 平日家に着いてすぐ、疲れるのは嫌だけどちょっとリッチなアニメが見たい……と思ったとき真っ先に手を付けるのがゾンビランドサガでした。笑いもあり、のめり込んでしまうところもありで、1期が良かったぶん高かったハードルにそれ以上のものを突き付けた毎週が待ち遠しくなるアニメでした。

 ゾンビランドサガの担当回って話だけ見るとかなり重いものが多かったと思っています。サキちゃん回ではホワイト竜さんが口走る”いい大人”にゾンビはなれず、純子ちゃんがアコースティックからエレクトリックに持ち替えたのは愛ちゃんとの繋がりを再確認できたけど一方でギターを壊し叫ぶ姿は青い少年少女の枠からは何も変わらなくもあり、リリィちゃん回は望んだ永遠がある反面永遠に成長できない未来を示されたり。とりわけ”先の無さ”にはかなり暗雲のあるストーリーだったように見えました。厳しさは2期に限った話じゃなく、例えば個人的に好きな1期8話『GOGO ネバーランド SAGA』は まさお ひじき と面白いワードに隠れつつただ一人のお父さんの視線を得られない好きがすれ違う相当重い話でした。だけど重い話をここまで笑いながら見られたのが手腕だなと思います。真面目な話のとき喋る生首がパクパク言ってたら台無しなんですよ。でもそれがゾンビランドサガらしさで、丁度よく中和してくれたからついつい真っ先に見ちゃうようなアニメになったんだと思います。そんなハチャメチャをやりながら新曲歌って圧巻のライブをしてアイドルアニメの轍もしっかり踏みにいくのズルいと思うんですよね。

 1期からずっと好きなところがあって、幸太郎さんがさくらちゃんのこと大好きなのが個人的なイチオシです。10話で自分の責任をきちんと謝ってリベンジを伝える幸太郎さんの「お前たちフランシュシュが――」って熱弁しながら目に映ってるのさくらちゃんだけってどういうことですか?? いちおう他のメンバーを蔑ろにしてるわけじゃなく直前でみんなの姿も映って名誉は守られています、だけど一杯一杯になったとき言葉とチグハグに一人を見つめてしまうのはやっぱり特別じゃん。。。って。

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 11話ラスト階段のシーンは特に好きです。普段は 幸太郎さん→フランシュシュ がお決まりの位置だけど 幸太郎さん→さくらちゃん になった瞬間に扱いがお姫様になるところ。月光の美人に一瞬乾くんの顔が戻ったり。光差す高い場所にいるさくらちゃんは「憧れの人」であると同時にステージの上の「アイドル」として立っているようにも見えました。1期の11話では夢を諦めようとするさくらちゃんを”持っとる”幸太郎さんが勇気づけてアイドルに立ち直らせようとする場面が印象的でした。しかし2期11話時点でさくらちゃんは既に自立しています。被災地で幸太郎さんがいなくても観客のために歌える、人に希望を与える姿はアイドルそのものでした。そしてアイドルとそうでない人は同じステージに立つことが許されない存在でもあります。*21

 だからこそ、この階段を上るのは冷静でいれば物凄くパワーの要ることだと思います。それはシャイな乾くんが憧れの人に接近する意味でもあるけれど、同時に自分の気持ちに蓋をしてさくらちゃんの夢を支え続ける決意でここを越えていく。アイドルとプロデューサーの境目が無くなった場でまくしたてる口調には内容と裏腹にどうしようもなく乾くんが混ざっていて、好きな人の幸せのため自分にも言い聞かせるような話し方が切なかった……。あらためて「お前の夢」を「お前らの夢」に言い直して巽幸太郎でいることを選ぶ。もしかしたら階段を上がって肩書を越えた先で、気持ちと過去を正直に伝えることも出来たと思うんです。そうすれば好きな人はアイドルじゃなくなるけど、一度は死別した人と再会した奇跡を胸に一緒に望む生活が出来たかもしれない。それでもさくらちゃんの幸せはアイドルでいることだから、さくらちゃん個人とのハッピーエンドより終わらない永遠のアイドルでいさせてあげる。永遠はゾンビだからこその欠点であり特権で、幸太郎さん自身も”持っとる”方の姿として永遠にそばにいることを誓う。ここがすごく素敵でした。*22

 幸太郎さんは弱い人なんですよ…… 人並み以上に挫けるし、情けない姿で帰ってくるし、烏賊人間になるし。それでも好きな人のためならどんな困難があっても叶えさせてあげようとする一途さがいいなぁって思います。目標や背負うものが大きすぎて絶対諦めもするんだけど、無謀の先でちゃんとここまで実現できてる。手を汚し時には自分すら裏切った先に返ってきた結果がやっぱり最終話のライブだったと感じます。やたらと没入感があった*23あのライブで、完璧にアイドルだったさくらちゃんが思いを溢れさせ、そして私たちも観客側で一緒に観たあの景色が幸太郎さんにとって何よりも嬉しいものだったと感じます。と、感じてた以上にライブ後の幸太郎さんがぐっっっしょぐしょに泣いてて思わず泣き笑いしてました。よかったね……

 

終わりに

続き物以外だと不滅、やくもあたりは特にお気に入りでした。また毎度のことですが感想は個人のもので、これはこうと決めつけるものではありません。たくさんの感じ方があって各々が正しいものだと思っています。

あと日本語が下手くそなのは相変わらずだけど書き方をなるべく落ち着けてみました。硬くないですか?? 大丈夫かな

春アニメも本当に楽しい時間を過ごせました。
以上です!

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*1:家には必ずそこに住む人とそれぞれの生活があって、世界がファンタジーなぶん見た目も多様で楽しい彼らとその生活を美麗に描ききったことがレティさんの出した答えとも通じ合い、混然一体としてキマっていました

*2:タイのCMでお酒をやめる、働く、働く、ってやるあれみたいな

*3:ライカちゃんたちが豚野郎を罵る回とか

*4:1話分の制作を他の会社に丸々渡すこと。たまに自社よりも強いところにお願いできる場合があって今回はそのケースです。

*5:2017年にボーカル交代があったそうで慎重勇者は2019年アニメなので実は新旧裏返っています

*6:ここは全体的な人や物の密度が左側に寄っているのもあって、ぽっかり何も無いところを見つめるような視線が人形を思わせたのかな、とか。

*7:母校の先生もバイクには疎くてすれ違うけど小熊ちゃんのことを見て話してくれます。

*8:私たちはもし「おすすめのアニメ何?」って人に聞かれたらつい細かく答えようとするじゃないですか

*9:誉め言葉です。だけどやっぱりきつかった……

*10:当時は確かにそう思っていて、でも蓬くんが軽薄な人じゃないって分かった今なら、ちゃんと覚悟を持って同じ目線に立とうとしたのかも……とも思い直しています。6話時点ではこの後苛立たしげに蓬くんをあしらうけど、お互いに本当がどうだったかは誰にも分からない場面だったんだと思います。

*11:寂れた箱の中で笑い合うここが酷いバッドエンドを匂わせるようで後の回はハラハラして見ていました。杞憂でよかった……

*12:ただしこれはどっちが良いという話ではなく、主義主張の話になってしまうので、快楽派のシズムさんも「やはり分からない」として去っていきます。

*13:桃恵ちゃんは10話でアカが本を閉じた以降、布団で震えてから”終わっている”人間として描かれていました。その上で13話にも出てたのがまだ役が残ってる感じがして嬉しかったのですが、自分の意思で電車を降りる場面でいよいよ……という印象を受けました。

*14:ねいるちゃん側も囚われのお姫様ではないように思います。フリルちゃんに同族として見初められるものの本当に同じならラットを預けず飼い殺しにしても良かったはずです。そのあたりも手を取ってポジティブさを感じました。

*15:着物の女の子と違って少年である憧島眉美は胡坐をかくから綺麗な形になるのかな。だとしたらそれは……美しい!

*16:「お父さんが喜んでくれないなら嫌だなあ」で姫乃ちゃんが映るのと、お父さんも一緒で幸せそうな2つの場面

*17:横道に逸れて……他のアニメのことを思い返すと、例えば『スーパーカブ』は何もない主人公と薄暗い生活に現実感があって、陰惨さをバネにしたぶんカブへの賛歌のような心地を小熊ちゃん目線から共感できたように思います。『バクテン!!』は現実感はありませんが、一方で主人公目線になる必要もなく、寮メンバーの関係を外から眺めるような視聴感と合っていました。

*18:仕事にすると予算や期限でそれどころじゃなくなるのも往々だもんね……

*19:人を参考にしたら同じものになるんじゃないかとか、自分のカラーが薄れるとか。こればかりは主人公の姫乃ちゃん目線では自覚しにくい事だとも思います。

*20:は、お母さんの意味だけではないとも思いますが

*21:モノ的な意味のステージだと、たとえば2期4話で純子ちゃんが愛ちゃんを舞台へ引っ張り上げられるのはもちろん愛ちゃんがステージに立つ資格を持つ人だからです。幸太郎さんがそこに並ぶことは出来ないし、自分を役割で覆ったままアイドルと対等に恋愛することも出来ない。出来ないなりに5話ではステージに立って繁殖期のムツゴロウをやるんだけどやっぱりダメです。テレビ出したらいかんやろ……

*22:そう願っても、死者を美しく照らす月明りの下で、さくらちゃんと幸太郎さんが永遠であり続けるにはまだ埋められない溝があって……切ない。

*23:カウントダウンから始まったときがすごいワクワクしました。あの瞬間から気持ちがバッチリ観客席に座らされて、ライブを見る時に追う視線が共有されたり。うまく言えないのですが、ライブを見たあと「良い時間だったな…」って思いにふけることがあって、最終話のライブにも確かにそこに時間が流れていたような感覚がありました。