2022秋アニメの感想(その2)

続きだよ~

見やすさ・更新の分かりやすさのため、試しにページを分けてみました。
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後宮の烏

寿雪お悩み相談室。

中華風ファンタジーの世界観に浸れるアニメでした。最近は中国発のアニメも多い中、今作は日本の文庫本が原作。そのためかある程度は馴染みやすい雰囲気があり、人名・固有名詞が分かるようになってからはさらに楽しめました。監督、キャラデザは『銀魂』から。この重厚なお話をアニメに汲み上げるのは大仕事だったと思います。

まず寿雪が麗人なのに加えて、可愛らしさも兼ね備えた人に見えたのが大きかったね。あの長くてスッとした首のラインとかいつ見ても綺麗。宮廷物語ってドロドロしてそうで取っつきにくいイメージもあったけど、早い段階で楽しく、意外と茶目っ気も効かせられるアニメだと分かり、うまく視聴継続に引き込まれてしまいました。

崩し顔をしなくても洗濯物の陰からヒョコっと出てくるだけで楽しい。あと寿雪が客人を迎え入れる場面で、手招きで遠くの扉を開ける ⇒ 客人が入って ⇒ 見返り美人で出迎え、の流れに風格があって好きです。いい感じに見える角度とか練習したのかな。

茶目っ気を呼び水に、『後宮の烏』という世界観にどんどん飲まれていくようでした。色々な要素が織り交ぜられているお話で、愛憎渦巻く宮廷物語でもあり、怪事件を解き明かすミステリーでもあり、また高峰とのほろ苦い恋愛模様でもあり。それらが後宮という箱庭に収まっているところに独特な味わいがありました。

後宮みたいなドメスティックな世界で起こる事件って、ちょっと悪戯しちゃった♡じゃ済まないような重さがあるよね。幽鬼を巡るお話では人の脆さ、愚かしさが浮き彫りになって見えました。蕙蘭が亡くした子を池に呼び掛ける回なんかは相当なエグみがあり、救いがあったとも言えないですが、どれも不思議と後味の悪さだけで終わる視聴にはなりませんでした。きっと寿雪が16歳には似合わないほど死生観にしっかりした人で、この人が偲ぶだけと決めたならそれ以上のことは無いと、自然に納得できていたからかもしれません。

一番好きだったのは寿雪と高峰の仲……だけど、この2人を「恋愛アニメ」と一括りにはしたくないような、なんだか対象年齢高めな大人の恋だよね。付き合いたい!とかを抜きに、ただお互いに敬意を払い、良き友でありたいと思い合える関係って大好きです。

高峰が寿雪に約束を立てるとき、決まって証となる物をくれるところも好きでした。普段の餌付け(!?)も含めて、帝は下賜に慣れている立場なのかも。それでも2人は対等で、約束を大切にしてくれている思いも感じられました。相手の居ないときに物を眺めて思い出す……なんてシチュエーションも、古風な中華ファンタジーの時代背景と相まって胸がきゅっとなったり。

 

13話ラストの締めが美しすぎて。ここまでの話で、後宮や烏妃の運命は決して明るいイメージではなく、最後まで変わることもありませんでした。だけどこのお話は、冬の冷たい庭先にぽつぽつと陽だまりが差すような、かけがえのない温かさに溢れたお話だったんだね。先代烏妃の麗娘さえ不幸ばかりではなく、寿雪という拠り所があり、その証明は他ならない寿雪が愛らしく育っているからと落ち着くのは見事でした。1話で初めに意外だと思ったこと、寿雪の茶目っ気が最後で鍵になるのはミステリーとしても面白く、また一人の人間の周りに確かな救いが広がっていることも嬉しくて。

クセの強いOPばかり話題になるけど、個人的にはEDの歌詞も推したいです。史実的には決して結ばれてはいけない2人だからこその、夏の貴方から受け取った温もり、冬の私から祈る「夏に降る雪でいれるかな」なんだよね……素敵。

 

永久少年 Eternal Boys

秋クールの隠れた名作でした。15分枠、脚本・シリーズ構成は『ちみも』から。

全員アラフォーのアイドルという濃いめな設定。同じく大人が夢を追う『リーマンズクラブ』もそうだったけど、自分はもう終わった(と思い込んでいる)人がもう一度やりたいことをやれるお話って大好きです。

まずアラフォーって夢ばかり見ていられる年代じゃないんだね。このアニメでは「アイドル」という特別感と、何気ない「中年の現実感」が絡み合っているのが凄いところでした。たとえば普通の物干し竿や天気予報なんかも現実に引き戻されるには充分なアイテムで。きっと主人公たちが普段目にしている景色ってこういうものなんだろうな……と思わされたり。

この喉に皮が余ってる感じ、凄くない? 枯れた趣味は無いと思ってたけど、魅力の見せ方も場面ごとにかなり気合が入っていて、思わずドキッとさせられることも多かったです。

個人的にアニメで最高の感想は(良かったね……)と思えることで、『永久少年』には何度もその気持ちにさせられたのが印象深かったです。40代スタートのアイドルなんて普通は流行らないし、実際Eternal Boysってかなりこっぴどく失敗を繰り返すんだよね。それだけに些細でも報われることが嬉しくて。スーパーでのライブも、CDがランクインすることも、石田さんのミスにフォローが入るのも……本当に良かったね。

特に10話、石田さんの思い出の写真が2枚になるところは完璧でした。きっと年齢を重ねた人ほど、振り返る過去が長い分、思い出の重みも増すと思うんです。無くした写真が新しく撮り直されるだけでも嬉しかったのに、その上で昔の写真もちゃんと出てきた瞬間は思わず膝を打ってしまいました。それが一番良い。きっとオタク冥利としても、自分がたった一人の推しを十年以上も追いかけてきた証拠が手の内にあること、ましてや今アイドルとなった自分とのツーショットを見比べられるなんて、これほどの幸福は無いんじゃないかな。視聴した時期こそ遅くなってしまいましたが、間違いなく2022年の10選に入るエピソードだったと思っています。

連続2クール、12話の柿崎さんが不穏じみるところで止まってるから、早く続きが見たくて仕方ないです。これは個人的ツボなのですが、大人と呼ばれる年齢の人たちが主人公のお話って、とにかく何かと理由を付けて、自分から自分の好きなものを諦めたがるんだよね。ズルいな~~、でもそういう気持ちが絶対にある。だからこそ、いつかEternal Boysがステージに立って輝いている姿を目の当たりにしたいと願ってしまいます。

 

勇者パーティーを追放されたビーストテイマー、最強種の猫耳少女と出会う

いわゆる「追放系*1」と呼ばれるジャンルを、一度きちんと見ておこうと思って視聴しました。少し前に放送された『真の仲間』が今でもタイトルを聞くくらいには評判で気になって。ただこればかりは趣味の問題なのですが、ジャンルそのものは私にはまだ馴染まなかった思いもあります。一方でキャラクターの可愛さや、このジャンルを忠実にやるぞ!という意思はしっかり感じられて、アニメの仕上がりが良かったのは間違いないです。

 

お話はシンプルで、主人公が馬鹿にされる ⇒ 周りの女の子がすぐ怒ってくれる、がお決まりのパターンでした。ルナちゃんが加入したときも、仲間の印が出ることより「レインに何かあったら許さない!」と怒っているのを聞いて、ああメンバーになったんだな……と実感したり。ただ本当にレインさんに着いて行きたくなるような甲斐性があるか、というとあまり感じられなかったのが難しかったです。

だけど多分そういう見方をするアニメじゃないね。主人公が冴えた人間かはこの際あまり重要ではなくて。それよりも視聴者が何らかで抱えた心の傷にすぐ薬を塗ってくれるような、即効性の癒し・肯定が持ち味だったとも思います。

たとえば、自分が正しいのに誰にも守ってもらえなかった経験がある人にとって、このアニメは何よりの救いになるのかもしれないです。現実には小説より怖ろしい体験だって沢山あるね。「止まない雨はない より先にその傘をくれよ*2」じゃないけど、何を差し置いてもまず必要なのは迅速な救いがあることです。そう考えると見方も変わってくるようでした。自分の話になっちゃうけど、私自身生きてて怖い思いをしなかった訳じゃありません。ただ私は否定されたらすぐ(自分の方が間違ってるんじゃ?)と思うタイプなので、このテーマとすれ違う理由はそこにあったかもしれません。

 

話は変わって、好きだったのはまずデザインです。キャラクター重視のアニメにとって一番大切な「キャラが可愛い」こと……簡単には出来ないことを、毎話しっかり魅せられるところに底力を感じました。途中挟まるデフォルメな小芝居とか大好き。それから島崎信長さん演じる悪役勇者の怒りや悔しさを叩きつける声、果てはみっともなく命乞いをする演技が大迫力で好きでした。金髪王子系キャラの華だよね。

あとOPのここ。追放されて水底に沈むレインさん ⇒ 差し伸べられる救いの手が下から生えてきて ⇒ 空に落ちていく、のがかなりいい感じ。このアニメって、自分を追放した勇者たちと同じ土俵に上がって見返してやろう!ではなく、こっちはこっちで好きにやるからお前らなんかもう知らないよ、ってスタンスなんだね。だから水底から這い上がるんじゃなく、さらに下へ抜けることで思いがけない幸せを掴み、自分が下に貶められた過去まで含めて肯定される……みたいな。

 

4人はそれぞれウソをつく

「ウソつきは友情の始まり」をテーマに、4人の間に見える美しい思いやりの心が大好きでした。今期のBD購入ラインへ真っ先に上がったのがこのタイトル。監督・シリーズ構成・キャラデザなどは『真の仲間』と同じチームで、上の『ビステマ』じゃなくこっちがそうなんだ。

原作のストックが薄いことで少し話題になってたね、何なら打ち切り寸前だったところをプロデューサーの熱意でアニメ化されたとか。そんな事情を知ったのは後の話だったけど、実際にアニメの1話を見ていてコレはと迫るものを感じました。

 

まず一番に好きなのは千代さんとリッカちゃんの友達関係です。千代さんには妙な親近感を抱いてしまって、私にとってこのアニメの主人公は千代さんでした。あんな美人さんだと言いたい訳じゃなく……実家を抜けたい気持ちとか、抜けて好きなことに打ち込む解放感とか、家の者が友達を害そうとしたときの許せなさとか、意志を強く持とうとして、そのくせ失敗したときは責任の矛先すべてを自分に向ける自己肯定の低さとか。

その目線からもリッカちゃんは本当に良いお友達に見えました。4話で千代さんが落ち込んだときも、リッカちゃんは「苦手なものには今後指一本触れさせないよ」って励ましてくれるんだよね、こんなに嬉しい台詞ってないよ……。言い切れたのは事実「指一本触れさせない」ことが出来るから、とお話が転がっていく要素でもあり。だけどその前に友達に対してそう思ってくれることに、偽りの無い思いやりを感じてしまいました。

 

学校にUFOが突き刺さってるだけで「ここは何でもアリの世界だよ!」って言えるのが力強いよね。ハチャメチャなギャグの楽しいアニメでした。時々ネタのブレーキが壊れてて本当に大丈夫?って心配になることもあったけど、そのくらい突き抜けるのもイイかも。

反面、意外なほど筋が通って繊細なアニメにも見えました。たとえば関根さんへのブスいじりは結構アクが強くも思えたところ、一旦は美人でしたでオチを付け、さらにその後で関根さんの性格の良さが光るエピソードが入っていたり。また全体でも、誰かが誰かに受けた恩は何話前の出来事だろうと覚えていて、それが今の話を進めるタネになるところにも骨太な納得感がありました。

良い意味での"場当たり感"というのでしょうか。物語の都合でキャラクターを動かすよりも、そのキャラ自身が生きて動いているのを感じられました。たとえばリッカちゃんなんて、宇宙パワーさえあれば起承転結のどれでもこなせる存在です。だけど決して便利に扱われず、常にリッカちゃん自身の愛国心や友達を思いやる仕草が行動原理にあり、それが結果的に楽しいドタバタ日常へと繋がっていく感覚が心地よかったです。これは4人とも同じで、まず根底に友情があり、そこから楽しいお話を手繰り寄せていくところに作劇の繊細さを感じました。

原作のストックが薄いという話でしたが、これはアニメとしての動かしやすさにも繋がるのかなと思ったり。尺に対して空白がある分やりたいことを自由に詰め込めるね。それが必ずしも良いかと言われると一長一短で、カイジパロのような不思議な回もあったけど、ハマるところではとことん噛み合いを見せる力強さがありました。

キャラ自身が生きている……と思うことでもういっこ、この4人ってお互いの友情度合いにもちょっとムラがあるんだよね。千代さんはリッカちゃんと大親友で、たぶん関根さん翼さんとはその次くらいだったり。すごく現実的。その上でお互いに自覚しない裏側で思いやりが通じ合っていたりする*3のも好きでした。とはいえ全体で仲良しなのは変わらず、翼さん一人が居なければ旅行から引き返そうとする、なんて描写にもグッと来てしまいました。

 

4人で過ごす毎日はハチャメチャで楽しいのですが、この日々はどこか期間限定のような気もしていて。お互いのウソが発覚すればいつでも崩れてしまう、壊れモノの友情を見つめる気持ちもありました。

拍車をかけるようだったのがEDです。1話で初めて見た時びっくりしました。本編はギャグ全開なのに、時間の巻き戻りと4人が消えていく演出に理解が追いつかなくて。ただ何となく、学校のUFOが消えてしまえば友情も何も無かったことになり、突飛なことも起こらないただの日常に戻るのだろうなという予感がしていました。

引き金に指をかけたのは翼さんの声変わりです。そんなのどうしようもないじゃん……見ていて項垂れたのを覚えています。ウソを抱えたまま友達と接するのって本人が一番しんどいし、一度何もかも壊してしまった方が楽なのかな……とさえ思ったり。だけどここまでを見て、4人に幸せであってほしいと心から願うようになっていて。今の関係を壊すなんてとても出来ない、だけど……と逃げ場の無い思いでした。

 

それだけにラストの切り返しは圧巻でした。ウソが許されて終わるのでなく、重荷を吐き出せないまま過ごすのでもなく、ただ4人が変わらず一緒に居られるend。ずっと不穏に思っていたEDが福音に裏返った瞬間の衝撃ときたら……何度見ても泣いてしまいます。11話って居合斬りなんですよ、これまでの関係を壊し、限界を超えた美しいものを見せて、その結果取り戻せなくなってしまった*4ものさえ、元の美しい鞘に戻して何事も無かったように出来てしまう。時間遡行みたいな大技って、物語にとっては一種のタブーでもあるはずなのに、このアニメに関しては大鉈を振るうとき必ず誰かが幸せになるんだよね。それをこれまでずっと見て来たわけです。だから時計の針が戻った瞬間があんなに幸福に満ちていて。

実際キャラが気ままに動くようなアニメだから、どんな結末もありえたんだと思います。だけどこの結末に至ったのは、4人の間に生きた友情があり、一緒に居たいという願いが引き起こしたものなんだと、強く感じています。

 

ストーリーの良さも語りつくせないけど、アニメーションの面からもすごく良かったよね。たとえば翼さんは原作絵よりも丸く女の子らしく見えるけど、不意にしゃがむときの振る舞いが男の子のそれだったり。それから遊園地回も衝撃的だったね……あの可愛らしいデートスタイルのリッカちゃんを千代さんは見られなかったって本当?一生の不覚ですわ。

一つ一つを挙げてここがと言うのも難しいのですが、4人が深く愛されて描かれているのが確実に伝わってきました。もう原作も買っちゃったので見比べてなお、この4人をこんな風にアニメ化してくれたら堪らないな……と思えて。よく言われる絵の巧さや予算も大切な手段の一つだけど、その奥にある愛をアニメから感じられた瞬間が私は一番好きです。

 

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*1:何らかの理由で国やパーティから爪はじきにされて、それでも新しく出来た仲間と一緒になんとかやっていくタイプのお話

*2:『チェンソーマン』OPから

*3:4話の千代さんと翼さんが「下に履くもの」の絆で仲直りを果たすところとか

*4:とウソを告白した翼さんが思い込んでいる