2022秋アニメの感想(その4)[終]

え!今さら秋の感想を?出来らぁっ!

 

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Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-

せるふちゃんの顎の下の撫でるところ。

どっしりした見応えで、かつライトな雰囲気もあって笑顔で見られました。秋は『ヤマノススメ』キャラデザの方が2作にまたがるすごいクールだったね。制作・監督は『かげきしょうじょ!!』脚本は『邪神ちゃんドロップキック』など有名どころ、秋だと『不徳のギルド』も同じ脚本の方だったらしいよ。

 

まずは新潟県三条市ご当地アニメの一面がありました。新潟にはちょうどこの前行ったことがあって、あの重厚なアーケードとか確かに見覚えあるな~と思ったり。三条市×『DIY』ふるさと納税コラボもばっちり、「釘の味がするアイス*1」には手が出なかったけど……いつかぜひ現地に行こうね。

語るべきことの多くは画面で力強く伝えられる分、あえて冗長な説明は控える表現を取っていたと思います。少ない線数で的確に特徴を捉え、かつ立体的に動くアニメーションには目を奪われてばかりでした。

特にこのアニメでは、せるふちゃんの「自分でも自覚できないけどモヤモヤしてる」とか、周りの「直接は言わないけど目の前の人を大切に思ってる」ような心の機微は肝だったので、単に美しいだけでなく、表現の幅をグッと広くしてドラマを見せられるところにも大きな意味があったと感じます。

冒頭の「猫みたい!」って言うのもあながち間違いじゃないらしく、可愛いデザインを求めて猫の仕草も参考にされたらしいよ。(◜ᴗ◝)って笑顔が可愛くて、ただいわゆる「こなた顔」*2にはならないよう注文があったとか。

 

表面は朗らかな日曜大工アニメ、下の方には目の冴えるような感情が横たわっているお話でした。本当はすごく重たい気持ちが乗っているはずのシーンでも、パステルカラーな雰囲気に乗せてさらっと見せてしまえるような。そのため気軽に視聴できるアニメではありつつ、細やかな仕草からその人の内心を想像させられてはアレコレと深みに嵌ってしまえるアニメでもありました。

たとえば9話の豚小屋を作る回。せるふちゃんはいつもの「まあいっか~」とは少し違って、自分がDIY部に貢献できているかの焦りが見える回でした。せるふちゃんは天真爛漫でもお馬鹿ではないし、自覚しないだけで生っぽい感情も内にあるよね。その様子は前半ハッキリ説明されないまでも、何となく描写から滲み出るようでした。

しかもその些細な異変にいち早く気付けるのは視聴者より先にぷりんちゃんなんだね。LINEの文面も本人にとっては挑発的かもしれないのに、あのぷりんちゃんが眉一つ動かさず、「せるふは自分が役立たずだと悩んでいるのよ」って的確に言えるの。この世で一番せるふちゃんを理解しているのはぷりんちゃんで、にも関わらずせるふちゃんが本当に危ないとき一人だけ出遅れてしまうのもぷりんちゃんで。あの時は思わず息を止めちゃったね……。こういった質量の高い仕草が慎重に、かつ何気なく切り出されるのを見ては悶えていました。

 

やっぱり気がかりだったのがぷりんちゃん、この子をずっと不安気な目で追っていた気がします。状況だけ見れば、大切な幼馴染は違う学校に行き、別の友達の輪の中で笑っていて、自分は待ちの姿勢で遠くから眺めるばかりだもんね。ここから無為に時間だけが過ぎれば……と思うと、どんな切ないお別れも想像できてしまいます。

2人はいつかは良い距離感を取り戻すんだろうと、OPやEDからも信じてはいたけれど、実際にぷりんちゃんが入部するのは10話と終盤なのはびっくりだったね。本来このタイミングが遅くなるほど、ぷりんちゃんが孤独で惨めな思いをする時間も伸びていたはずです。だけど決してそうさせない周りのケアが嬉しくて。

つくづく優しさにあふれたアニメと感じています、月並みな言葉だけどここは指折り。みんなが笑い合う中、一人だけ悲しい目に遭ってるなんてありえないよね。しかも俗にいう"優しさしか無い世界"とも少し違っていて、三条市で暮らしてさえいれば楽しい日々が待ってるという描き方ではなかったと思います。それよりはこの町に住む人たちに優しさが宿っていて、その人たちの意思によってお話が紡がれていく感覚が心地よかったです。

みんな優しくて仲良し……な上でちょっとだけ湿った話をするなら、せるふ・ぷりんの仲だけはやっぱり特別だよね。ぷりんちゃんとジョブ子ちゃんが並んでるとき、せるふちゃんが無意識に手を引くのはぷりんちゃんただ一人なんだ……とか。あの時のジョブ子ちゃんの表情は何を言ってたと思う?

 

DIYってフレーズにも見方があるね。ひとつは単に「ものづくり」としてのDIY。近未来で便利な世界でも自作するとか、お金がある所にはあるけど部費は自分たちで賄う、な感じがいかにもDIY精神。今あるものを使って、作って、遊んで……って毎日をこんな風に生き生きと描けたら本当に楽しそう。

もうひとつは「Do It Youself」として自分から何かを働きかけること。何ごとも主体的に……なんて、物語のヒロインなら軽々やるかもしれないけど、それが三条市に住む女の子なら並大抵のことでは無いです。面白そうなアイデアを思い立ったとして、(他のもっと有意義な事をした方がいいんじゃない? 周りから何か言われるかも)って臆病さは必ず付いて回るものだよね。

その点でDIYメンバー、家族の視線が本当に温かったです。せるふちゃんが明らかに絵の方が得意でも「工作より絵をやればいいじゃん」なんて言う人は誰も居ないんだね。もしくは部長の作るクッキーが不味くても直接指摘するような人はいなくて。

誰かが自分からやろうとしている事をじっと見守ってくれる眼差しが何よりも嬉しかったです。「口出しせず見守る」ことは「アドバイスせず無関心でいる」こととも似ていて難しいけど、今作はこの距離感の表現が見事でした。

 

10話も外せないです。せるふちゃんが校舎の窓から眺めているぷりんちゃんをやっと見つけられる〆、ここは何回見ても泣いちゃう……

これまで軒先越しに話すシーンは何度もあったけれど、10話ではこの垣根を越え、ぷりんちゃんが直接家に乗り込んで励ましに行くのが印象的でした。待ちの姿勢を貫いていたぷりんちゃんでも、イザというとき脚が止まったとしても、ここでは自分から行動を起こしているんです。

実はこの時点でせるふちゃんが当初思い描いてた「昔のようにぷりんと隣に座る」こと自体は叶えられてたんだね。だけど今は、DIYの楽しさを知って高校の制服を着る今の2人なら、既製品の椅子に並んで座るのではもう足りないわけです。

自分から行動したぷりんちゃんに対して、せるふちゃんも成長という形で歩み寄りを見せる人でした。これまで2人がすれ違っていたのは、ぷりんちゃんが素直になれないだけでなく、せるふちゃんもまた真摯な思いを受け止めるには幼すぎる人なのもあったと思うんです。だけど10話までの話で、せるふちゃんは周りに支えられ、自身の不器用さや困難にもぶつかり、その先で少しだけ自分のやりたいことが出来るようになっていて。

だから校舎の窓にぷりんちゃんを見つけられたのは、お互いが歩み寄った先に作り出された結末だったんだと思います。このアニメはぷりんちゃんにとって、受動的にDIY部のお仲間に入れてもらう話ではないし、太陽のようなせるふちゃんに助けてもらう話でもないね。

終盤は秘密基地づくりと後語りにじっくり時間を使えるのも良かったね。「完成が楽しみだけど終わってほしくない」のはまさにその通りで、目的でなく手段に楽しさがあるDIYだからこそ、手を動かすところにも最高の時間が詰まっていました。ずっと見たかったもんね……ぷりんちゃんが本編で心底楽しそうに笑うとこ!

 

シナリオ的にも、映像的にも、それらが手を取り合ったものとしても、非常にハイレベルで見応えのあるアニメでした。初見でも楽しく見られる上、何度見ても発見のある奥深さもあり、アニメーションにも魅入ってしまいました。ただ凄みに圧し潰されるような視聴というよりは、あくまで手触り柔らかなところにも心が助かりました。good job......!

 

SPY×FAMILY(13~25話)

続編&劇場版の制作も決まったね。家族テーマは個人的なツボを刺激する部分も多く、ネームバリューを差し置いても楽しく見られました。割とどんな話も出来ちゃうアニメだからネタに困らず長く続けられそう。

 

13~15話は、比較的スパイ要素がマシマシだったかと思います。2クール目を折に方向転換したかと思いきや、その後の「ヨル'sキッチン」をはじめ、家庭内のお話にもしっかり寄り添ってくれました。スパイ活動が本格化するほどロイドさんが家族から離れる時間も増えてきて、とにかく無事に……できれば早めに帰って来てね、と見ることが多かったです。ロイドさんが事情を言えないのは分かるけど、何も知らされず残される側だって不安だよね。

そういった空気感はOPにも見られました、最高のOP。1期はスパイ/家族のウラオモテが目を引きましたが、2期はもう少し時間が経った後の家族を感じられました。ロイドさんが仕事に出ている間、ヨルさんとアーニャさんが居る家は帰る目印になっていたり。ヨルさんは大切な人の帰りを待って窓の外を眺めるような。

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ロイドさんが外に出るのに比べて、ヨルさんは家を守る立場に回ることが多く、それだけだと「妻役ってそういうもの、家にいて守ってもらえばいい」みたいなイメージに繋がる可能性もありました。だけどそうではなく、特に2期はヨルさんにも試練が降りかかり、家を守ることは東西戦争にだって引けを取らない熾烈なものと扱われていたのが好印象でした。

 

中でも夜帷(とばり)さんは夫婦の間に割って入るキーマンでした。最初コワい顔で登場したけど本当は楽しい人なんだろうな……と思ったらその通りだったね。

ヨルさんは妻として厳しく審査され、1mmもボロを出せない立場が続きました。思えば弟のユーリさんが視察に来るのだって神経すり減らしたもんね。可愛いだけで許される女の子とは状況が違います。

そんな崖っぷちで”仮初め"を演じる……のではなく、ヨルさんの普段の行いから滲み出て"良い家族"を見せつけられるのが力強くて。もう本物以上に本物の家族じゃん!とは思いつつ、ヨルさん自身もこの家を居場所として認識してるんじゃないかとは思ったり。

 

一方のロイドさんが未だにミッションの一環だと考えてるのがま~~もどかしいね。ロイドさんは冷たく思考を回してるつもりなのに、行動は良き夫として熱く優しく振る舞ってる言動不一致さが好きです。後はほんの少し自覚を持つだけなのに……

たとえばここが好きでした、「この関係はハリボテに過ぎない」って呟きながらアーニャさんに寄るところ。ロイドさんは作り笑いのつもりかもしれないけれど、見切れた表情は偽りなく父親の顔をしてるんだと思えてしまって。でなければ奥のヨルさんが見ていて笑顔なはずがありません、たとえ仮初めの妻でも夫の表情に裏が無いかを勘づかない人じゃないと思うんですよね。

アーニャさんが差し伸べられた手をノータイムで掴める自然さにもグッと来ました。何気なくてもその動きは心からの信頼が無いとできないよ。家族の形が1期よりもさらに成熟してきたと思えるシーンが多々見られました。

 

すごく良いなと思ったのが18話、学校に潜入したロイドさんがアーニャさんのテストを書き換えなかったところ。完璧主義なロイドさんだから改竄してもおかしくはないと思っていました。

これは1期のときも言ったのですが、本来親は学校の敷地内まで踏み入るべきでなく、それ以上は過干渉になりうると思っています。だからロイドさんが校内に入るのも嫌だな~とは思いつつ、テストの改竄は越えてはいけないライン、子どもへの不信に他ならないと固唾を飲んで見ていました。

それでも18話で改竄しなかったことが、25話アーニャさんの「父に好かれているかは分からないけど、父が好きだから赤点でも(テストを)見せるようにしてる」まで繋がっていたんだと思います。

ロイドさんにとって実利が見える方がきっと安心できるでしょう。それでも親は子どもに真摯に接するしかないし、そうしていれば子どもを信じる想いだけは伝わるかもしれません。フォージャー家の"家族のてい"が壊れる最低ラインをぎりぎりで回避するスリルもありつつ、それが転じて思いがけない嬉しさまで押し上げられる感覚がすごく好みでした。*3

 

好きなシーンが多すぎる……24話もすごく良かったです。ロイドさんが人を騙す策は0.1秒で練られるのに、ヨルさんの真剣な悩みに向き合うときはたっぷり時間をかけるところ。この間を自然に生み出せるのはアニメならではだったと思います。

 

デズモンド家のお話も大好きでした、無関心な親の気を引きたかったダミアン君……

デズモンド父がヤバい人という印象はあったので、25話はてっきりダミアン君のお願いも突っぱねられるものだと思っていました。電話越しに話すのはひどく寂しいけれど、すかさず後ろでお友達が騒いでくれる感じがすごく心強かったです。本当にいいお友達を持ったね。

だけどお父さんがほんの少しでもダミアン君の声を聞いてくれたの、あのぱぁっと輝く表情のダミアン君を見て泣いちゃいました、良かった……。

細かいことかもしれないけど、デズモンド父が帰るとき元の道を引き返して行くんです。何かのついでではなくダミアン君の声を聞くためだけにわざわざ来たのかなって。あれ?もしかしてあの人、思ったほどの極悪人でも無かったりしない?

 

万聖街

ニーニーさん可愛すぎ!!! 大好きなアニメでした、みんな最高に可愛くてにっこにこ。

原作・制作ともに中国のアニメです。周りで見ている人はちょっと少ない印象だったけど、秋アニメでは掘り出し物級の楽しさでした。*4

 

萌えって万国共通なんだ……体の分厚い大人たちが仲良くキャッキャしてるときに出る笑顔があるよ。見ていた感覚は『吸血鬼すぐ死ぬ』に近かったかもと思います。

原作から海外の作品だと、文化の違いや、そもそも何を指して面白いとするのかが日本とは違っていたりします。だけど『万聖街』はいつも慣れ親しんだ感性のまま楽しめました。ここが結構びっくりで、言葉は違っても共通の萌えで通じ合える感覚があり、すごく前向きになれました。

お前は誰が好きなんだよ。やっぱりまずはニールくんとリリィちゃんの純粋カップルが好きです、周りがちょっと年齢層高めなぶん二人の甘酸っぱさが眩しくて……! それからリン先生とニックさんの凸凹お兄ちゃんコンビも好き、家族ぐるみのお付き合いになってしまうね。個人だとダーマオさんがめちゃすき、毎日おいしいごはん食べてほしい。

EDもお気に入りでよく聴いています、『ヴァニタスの手記』で歌ってるのを聞いて知りました。2期、というか続編放送もうれしい~~、もうずっと笑顔で眺めていたいアニメ。

ところでニールくんやニックさんが「悪魔だから変身できる!」って公式で男にも女にもされてるのヤバすぎない? そんなのさ……いかようにも出来るじゃん……中国本土のpixiv小説で……。

 

ぼっち・ざ・ろっく!

見つかっちゃった……後藤ひとりの才能が。

秋で最も有名になったアニメの一つでした。普段マンガをあまり読まないのですが、それでも原作が流行った当時は自然と耳に入るタイトルで、今回のアニメ化はブームの第2波だったのかなと思います。

 

1話、開幕1分の掴みが凄まじかったです。何の感傷も無く、あっという間に過ぎる幼稚園~中学時代。この期間は後藤さんにとって灰色で、人生のエピソードに数えられるような出来事は何も無かったのかもしれない……と、背景が一撃で伝わってくるようでした。

 

とにかく「ぼっちちゃん」こと後藤さんへの解像度が高くて、思わず共感してしまうアニメでした。集団で歩くときの距離の取り方とか、人の顔色を伺うことに全神経を注いで内容が疎かになるとか……数えればキリがないくらい。

そんな後藤さんにも諦めずに話かけてくれる虹夏ちゃんたちが嬉しかったね……ありがとう、愛想つかさないでくれてありがとう、っていつも言ってました。ぼっちちゃんの支離滅裂な話にもとりあえず乗ってくれるし、言葉に詰まれば補完してくれる。いつか結束バンドが後藤さんにとって安心できる場所になるといいよね、って思うようになったり。

 

6話は2022年の10選記事に書いたので丸投げ。最後にあがるご褒美の花火を八景の松で隠したのは天才だよね~って話をしています。やっぱりあの半分見切れた顔のカットで心を鷲掴みにされちゃったなぁ……。

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後藤さんのダメさに共感する気持ちは確かにあるのですが、それとは別に、後藤さんって凡人では無いんだよね。1話でも「毎日6時間ギター練習してて~」で笑ったけど、よく考えるとそんなこと普通できないです。

そんな風に言うと(オレには何も無いんだ……)って底辺を争う気持ちが生えるかもしれないけど、そうじゃないね。ぼっちちゃんの生態にこれだけ親身になれた分、ダメな自分に似た人がきちんと羽ばたいていくのを見るのは救いになりうるじゃないですか。

だから後藤さんにはどうしても報われてほしいと願っていました。

 

8話ごろからゆっくりと結束バンドの見え方も変わってくるようでした。最初は「後藤さん / 優しい人たち」って感じ。だけど心に陰鬱さがあるのって後藤さんの専売特許じゃないし、他メンバーにも各々の抱える暗さがあり、それを段々と表に出すようになって見えました。

むしろ3人の方からゆるく「後藤化」してくる感じ、ここがまた嬉しかったです。だって嫌いな人の習性に感化されたりしないよね。後藤さんが一方的に介護される役ではなかったこと、また徐々にお互いが心を開き合っていく様子に、本当に良い集団になっているんだなと実感できました。

 

後藤さんを向く劣等感はしたたかにあって、実は台風ライブのときも、さっさとチケット捌いて遊んでる描写があった3人が呼んだ人は誰も来なかったのに、後藤さんが演奏で勝ち取ったファンだけは何が何でも来てくれたり。

その辺りから虹夏ちゃんが「"皆"で成功しよう!」を繰り返し強調したりするわけです、それはもう半分SOSサインじゃん…… 優しくしてくれる人たちって印象から、もしかして3人も根は後藤さんに近いんじゃないか?って思えるようになり、バンド全体への思い入れが一段と増しました。

 

思い入れが増すと、迎える文化祭ライブにも自然と視聴に熱が入ってしまいます。

ライブ前日、後藤さんが「楽しんでもらいたい」って言えるのが何だか感動でした。「乗り切りたい」とかじゃないんだね。それは路上ライブでお客さんの顔が見えるようになったから言える台詞なのかな、と思ったり。

 

やっぱり文化祭でやる演奏って特別です。空気感、照明、派手ではない観客席、高揚感……武道館ですら味わえないモノがあの体育館にはあって、それをアニメができる全ての力で魅せたのが12話でした。

絵も、動きも、演出も、声も、お話も、もちろん今まで見てきた4人が積み重ねてきたものだって。アニメは総合芸術だと常々思ってるのですが、やっぱりこの回を見てしまうと、こんな風に"アニメ"を作れたら、最高に気分が良いだろうなって思えてしまうんです。

特に大好きだったのがここ、後藤さんが一息ついて天井を眺めるところ。頑張った後藤さんにとって、このキラキラした一瞬の青春に浸れる間がしっかり用意されてるの……世界一幸せな時間だよ。


本当に楽しんで作られているのが分かるアニメでした。もちろん原作や実力の下支えがあってこそだけど、そういう雰囲気って何となく見ていても伝わるし、釣られて思わず楽しくなっちゃうね。

これもよく言ってることでアニメは原作をなぞるものでなく、原作を再解釈するものだと思っています。今回アニメをする上で、ぼっちちゃん達の生態に徹底的に寄り添い、時には遊び心と反応して新しい一幕が生まれて、決して低くない期待のハードルを高く高く飛び越えていったなと思います。

アニメ化に対して最後にそう思えたときわたしは一番嬉しいです。

 

ロマンティック・キラー

ものすごく良かった……!秋のダークホースでした。

Netflix完全独占配信で周りで見ていた人は少なかった印象。よくNetflixアニメはピンキリと言われて、そうだとも思うけれど、今回ばかりは大当たりでした。本当にTV放送する予定とか無いの……?もったいないよ。

 

百聞は一見に如かず、まずはどこでもいいので動いてる所を見てほしくて、

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このアニメめちゃくちゃ気持ち良く動くんです、純粋に「見ていて楽しい」って気持ちがふつふつと湧いて出るアニメでした。ちなみにどつきあいがメインな訳じゃないよ。コンテの切り方、安っぽくならないCG、どこを取ってもビカビカとセンスが光るアニメでした。

で、この楽しさどっかで見たことあるな~と思ったら『灼熱カバディ』の制作陣なんだね。不思議にすごく納得感があります。脚本の方は『まちカドまぞく』『佐々木と宮野』など。今更感だけどここからはネタバレもりもりです。

 

「恋じゃないけど 君がスキだよ」って歌詞が好き。杏子ちゃんはもちろん、登場人物への好感度がものすごく高かったです。恋愛ありきじゃなく、その前段階に人間としてのあなたが好きだよ、って向きに進んでいくんだね。恋に恋するような話も好きだけど今作は真逆を行くスタイルでした。見ていてすっかりそれぞれの人が大好きになっちゃって、でもまさか憎き黄色のキュゥべえまで好きになれる日が来ようとは……。

中でも杏子ちゃんは2022年度・好感度No1と言える人でした。カッコいい、あんな人になりたい。

寄るイケメンが魔法で洗脳されていると知ってる分、申し訳ないって気持ちが先に出るよね。倫理ラインというか、まずはここが見ている気持ちと杏子ちゃんの言動でぴったりマッチしました。杏子ちゃんが本当に芯の通った人で、はじめ想像していた結局イケメンにほだされる展開なんだろうな~って予想を見事に打ち砕いてくれました。

 

杏子ちゃんみたいに強くなりたい気持ちもあるし、杏子ちゃんのような友達が一人でも隣に居てくれたらどれだけ心強いかとも思います。

それが如実だったのが10話~12話。かなーーりアクの強い悪者が出てくるのも、真正面から立ち向かうストライカー気質の主人公のお話に合っていました。カッコイイも、お笑いも、ロマンスも、ワルモノも……感情にガツンと訴えかけてくるアニメに余念がないね。

咲希ちゃんのように怖い目に遭うタイミングが人生のどこかにあって、それは司さんも同じことで。あの時は服の袖をギュッとしながら見ていました。そんなとき優しく寄り添ってくれる人、抱きしめてくれる人が居るか居ないかで、その後の当人の生き方が変わってしまうほどだと思います。

杏子ちゃんは紛れもなく世界の中心だけど、安い乙女ゲーヒロインみたく善人を演じる役ではなく、心から真っすぐな態度を示してくれる人だと信じられたのが何よりも心地よく安心できました。

 

最終話の〆も圧巻でした。ご都合主義に見えたところも全てが噛み合って、重箱の隅をつつく視聴スタイルの人も一発ぶん殴るよう。リリが悪者のいる刑務所に折檻しに来たときなんてまさか……!って思ったよ。承認に飢えてどうしようもなくなった人と、夢のような承認を与える魔法使いが出会うんだから……って。実際にその役はリリでは無かったけれど。

 

似たことを『後宮の烏』で思いましたが、ラブコメの中でも惚れた腫れたの前に、人間としてお互いに友である・認め合って好きでいられる、って関係がわたしは一番好きなのかもしれません。『ロマンティック・キラー』はまさにその中心をガツンと射止めるアニメだったなと思っています。

どうしてこんなに良いアニメが人の目に触れてないんだろう。独占配信が原因だけじゃないと思うよ、見て。

https://www.netflix.com/title/81318888

 

ヤマノススメ Next Summit

あおいとひなたが帰ってきた……

フルコースで言うところの肉料理、2022秋のメインに相応しい重量級のアニメでした。ほのぼのカテゴリが付くアニメのはずなのに。

 

アニメを指して「重み」というのも独特だけど、このタイトルでの意味は大きく2つです。

1つはリアルな人間が描かれて、間に人間関係が横たわっているところ。あおいちゃんの人見知りは同クールの後藤さん*5に比べてもちょっとネタにならないような、卑屈さもあるのがかえって等身大な魅力に裏返っているような人でした。ひなたちゃんの感情の大きさは言うまでもないね。特にひなたちゃんの視線に込められた想いを探ろうとするたび、電車を真正面から受け止めるような取っ組み合いをこのアニメとしていた気がします。あおいちゃんクリスマスの夜くらい早く帰ってきてね……。

2つはアニメーションです。『ヤマノススメ』って特殊なタイトルで、一部のアニメーターや絵を描く人にとっては神格化されている側面があります。よく模写で雪村あおいを手本に描いてる人見たことない? あの感覚は少なからず自分の気持ちから共感できたりします。もしくは本職ならプロフ欄に「ヤマノススメに参加しました」って書ければちょっと箔がつくような。

そんなタイトルなので、単に絵が綺麗という域を越え、ワンシーンごとの表現にとてつもない訴求力がありました。言葉で説明しては陳腐になる人間関係の機微なんかも最高のアニメーションとしてぶつけてくる。見る側がどれほど受け止められるかは別として、個人的にそういうところが好きでアニメを見ている節もあるので、このアニメは毎話・毎シーンで目を皿のようにして見ていました。

そういうわけで、いつも見終わった後は疲労感と満足感で世界一幸せな顔をして倒れるような視聴でした。

 

1~4話は3期までのプレイバック。1期の放送なんてほぼ10年前だけど、意外と細かい部分まで覚えていて楽しかったです。本放送では確かこの場面で「つづく」が出てひと区切りだったな~とか。

忘れようもなかったのが2期、富士登山に失敗した回。今回のOPで富士山マークが出たときは、あの回をやり直すんだ……と戦慄しました。失敗して見える天の川を「染みみたい」と呼ぶ無感動さ、あおいちゃんの意固地さにどうしようもない気持ちになったのを覚えています。

3期が本格的に(このアニメはやばいぞ)と襟を正すきっかけになったクールでした。すれ違う2人の姿が鮮烈で、今でもアニメの中で季節が秋に入るとサードシーズンを思い出しては身構えてしまいます。


4期をシーン単位で話すとキリがなくなるので一部だけ。

まずあおいちゃんにとって10話は大きかったね、クラスのみんなと天覧山に行く回。何食わぬ顔をしながら親友を送り出してくれるひなたちゃんの偉大さよ……あおいちゃんの本来の気弱さもここぞとばかりに詰まっていました。

「自分で思ってたよりもずっと優しい世界に生きてるんだ」の一言がとんでもなくて。そう思えるのは周りの人が良くなったからじゃないし、あおいちゃん自身の内気さもそんなに変わってはいなくて、ただ登山を通して見える世界が広がったからなんだね。

 

本命の富士山リトライにも、今回は準備に準備を重ねている慎重さが見ていて同じ思いでした。もう本当に心配でたまらなかったね……ここでもあおいちゃんは小春先輩に自分から質問しに行ったり、登山ルートに意見したりと、今までならしなかっただろう些細な変化が見えるたびに嬉しくなっていました。

ひなたちゃんが羊羹を持って行かないのは何だろう?と思ってました。このアニメのことは信用してるけど、人の気持ちが傷つく描写もままあるアニメなので、何か悪い事の前振れじゃないといいな……と祈っていて。

 

上級者が初心者を連れ回した結果ムリさせてつらい思い出にさせてしまうのって、結構あることだと思います。それが好きな物(ここでは登山)をむしろ嫌いにさせてしまうことも。そんなデリケートなことを扱う上で、3rdで衝突したり、4thの冬で山と関係ない話も含め時間をかけ、その先であおいちゃんから「富士山に再挑戦したい」と言ってくれたことがまず嬉しくて。

だからリトライの結果がどうあっても祝福するつもりではいました。怪我なんかが無ければ。

 

道中、あおいちゃんが羊羹持ってきてる!!すごい……今まであおいちゃんの些細な変化を拾っては嬉しくなっていたのに、いつの間にかこんなに逞しくなってたなんて。体力的なこともそうだし、「なにヌルいもん持って来てんのよ!」も不思議と頼もしくて。今まで心配で仕方なかった分、思いがけずあおいちゃんと一緒に笑ってしまったね。うれしい。

山頂までの道のりはこれまで以上に素朴で、写実的で。山頂でボロボロの靴が映るリアリティもすごく好きでした。一人の人間が身に傷を刻みながらここまで登ってきた証だよね。それは今回の富士山でも、あおいちゃんが歩んできた年月でも、『ヤマノススメ』というタイトルにとっても。

 

山頂や降りてからが意外とあっさりな心地に落ち着くのもその通りでした。あおいちゃんはよく(しんどい なんでこんな所を歩いているの 何のために山へ登るの)と呟いていたのを覚えています。だけど頂上で何かが貰えるのではなく、むしろたどり着くまでの一歩ずつに意味があって、頂上はすでに得たそれらを纏めあげる印のようなものなんだね。

あおいちゃんの視座が少し高くなった今、御来光だけでなく周りの人たちの顔を見て感謝を伝えられるのもすごく嬉しかったです。もし頂上が目的だったら景色を見続けていたはずだよね。また未来に思いを馳せ、あの御殿場ルートを登っている強くなった自分にすれ違えたのも、登山に精一杯で地面を見ている頃は気付きようも無かったことなんだと思います。

山を登ればそこで終わりじゃなく、降りる時間もあって、その先もまだ時間は続いていく。そんな当たり前なことの中でも、自分の日々踏みしめる一歩を知り、支えてくれる人の顔が見えるようになった。だからあおいちゃんはきっともう大丈夫なんだと。スタッカート・デイズと一緒にどんどん流れていく季節を見て涙を流していました。

 

本当に傑作だったね……もともと4th自体がものすごい熱量の上に実現したのもあって、かかる期待も大だったところ、最後の〆まで見事にやり遂げた作品でした。これほど綺麗に区切りをつけたアニメに続編を求める気持ちはありません。それでもあおいちゃん達は日々を歩き続けることを選んでいたから……終わりの言葉は「またいつか」だね。

 

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*1:https://www.furusato-tax.jp/product/detail/15204/5545844

*2:『らき☆すた』の泉こなたがよくする顔

*3:今回はアーニャさんが良い子だからロイドさんにフィードバックが返ったけど、実際は必ずしもそうではないかも。それでも例えば「裏切られた」なんて容易く親が言うべきではないね。

*4:中国では2億再生くらいされてるらしいよ

*5:『ぼっち・ざ・ろっく!』より